プロテスタントの厳格な教えと抑圧的な支配。
そんな思想が浸透していた20世紀初頭のドイツでは、規律や権威に忠実であることが求められました。
やがてそこから小さな不満が生まれ、ささやかな悪意や嫉妬が憎悪に満ちた罪となって積み重なってしまいます。
ファシズムの片鱗をも感じる純粋で邪悪な思想を描いたパルムドール受賞映画【白いリボン】の世界へとご案内いたします。
この記事でわかること
- あらすじ概要・出演キャスト
- 予告動画・動画配信サービス・DVD情報
【白いリボン】モノクロームの世界
モノクロの映画って、なんか小難しそうなイメージなんだけど…。
あぁ、でも今作は2009年の作品で、あえてモノクロ映像にしてあるミステリー系だ。
- 監督はミヒャエル・ハネケ氏
- 今作は、第62回カンヌ国際映画祭・最高賞であるパルムドールを受賞
- さらに第67回ゴールデングラブ賞では外国語映画賞も受賞
- その他とにかくゴッソリ数々の賞を総ナメし、作品評価は絶賛の嵐
- 言語はドイツ語。イカつく物々しい雰囲気
- …ただ、上映時間が144分と長い
制作公開年はさほど古くはないものの、描かれているのは第一次大戦の1年前の時代です。
このあと大きな戦争を、そしてナチス・ヒトラーが台頭する時代を迎えるという暗い時代背景を、モノクロ映像で演出。
映画【白いリボン】は、とある村で次々と起こる事件を通して、終始漂う負の空気に後味の悪さが残るクライム・ミステリー作品です。
映画【白いリボン】基本情報
白いリボン | 2009年 オーストリア・ドイツ・フランス・イタリア合作映画 |
ジャンル | クライム・ミステリー・ヒューマンドラマ |
監督・脚本 | ミヒャエル・ハネケ |
上映時間 | 144分 |
出演 | クリスチャン・フリーデル、ウルリッヒ・トゥクル他 |
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【白いリボン】あらすじ
物語の舞台は1913年のドイツ北部。
名もなき小さな村で起こった、1つの故意的な事故の様子から始まります。
- この村唯一のお医者さんが、乗馬の帰りに落馬
- それもこれも、家の庭木と柵の間に細く頑丈な針金が張られていたから
- おかげで大怪我を負い、町の医院に入院することに
なんて悪質なっ!
…日本でもあったな。電柱だか街路樹にロープ張ってバイク転倒って事故が。
日本での事故もこの医師も、大惨事には至らなかったのが不幸中の幸い。
命には別状はありませんでしたが、一歩間違えればお陀仏というまさに鬼畜の所業です。
- ちょうど医師の娘が窓から事故の様子を目撃
- すぐに隣家に住む医師の助手・助産師や警官にお知らせ
- ところが翌朝には物的証拠の針金が消えた
- 捜査の甲斐なく、犯人や真相は不明
ちゃんと念入りに調べないと!再発したら今度こそお陀仏じゃん。
…そうなんだが、翌日もっと悲しい事故が起こるんだよ。
新たな惨事が起これば、人々の関心や好奇心は流れ移るもの。
医師の事件の真相もそっちのけになるような、死亡事故が起こってしまったんです。
- 荘園で働く小作人の妻が転落死
- 小屋での作業中に、腐った床板が抜けたから
- 雇用主の男爵も小作人を取りまとめる家令も、床板が腐っていたのは知っていた
え。知ってたのに修理とかしないで仕事させてたの!?
…あぁ。今ならきっと業務上過失致死とかになるんだろうな。
しかし時代は20世紀初頭。
きっちりと上下関係を分けられた身分社会であり、この村の最高権力者は男爵です。
そしてその右腕となる上流身分を持つのが家令であり、村の半数以上は男爵の元で働く庶民ばかりでした。
- 転落死事故は、故意ではないが過失とも取れる
- …が、男爵や家令に睨まれたら誰もが仕事を失い、生活していけない
- 小作人も過失だろうと思うものの、どこにも誰にも訴えることが出来ず
- まぁ男爵も鬼ではないので、村の衆総出で小作人妻の葬儀は行った
もしかしたら自分が転落死していたかも知れない…。
そんな疑心暗鬼に陥る悲しい出来事だったため、明らかに個人を狙った医師の落馬事故はあっという間に風化。
そして小作人妻の弔いが済むと、村の大人たちは事故の真相に無関心を装い、何事もなかったかのような日常を送っておりました。
権威をかざす者・屈する者
故意による落馬事故・不慮にも過失にも見える転落死事故。
結局なにも真相が突き止められないまま、事故に関心を寄せたのは子供たちだけでした。
- 医師の落馬事故では、ひどく落ち込む娘を気遣って学友たちが集まった
- そのせいで帰宅が遅れた牧師の子供たちは、説教され鞭打ちの罰を受けることに
- 転落事故をうやむやにされ、ご立腹の息子は親父にぶん殴られた
むぅ…。なんか不条理。
…そういう規律だったんだよ。この時代のドイツは。
プロテスタントの教えは絶対であり、権力者の権威もまた絶対。
村の大人たちは権力者の圧力に耐えねばならず、子どもたちは親、特に父親の威厳に従わねばなりません。
たとえそれが不当な扱いでも、そこにに憤りを感じても。
- とはいえ、闇雲に抑圧されていたわけではない
- プロテスタントの教えが徹底され、身分制度が根付いていただけ
- 道徳的には教えは正しく、しかもきちんと何故そうなのかを子供たちに諭している
- 倫理的には問題もあり、大人も子供も少なからず不満は抱いていた
大人は仕方がないって諦めて受け入れるけど…。
…子供たちは、納得いかない不満が抑えきれなくなっていくんだ。
この村では、清く正しい無垢な心を持ち続けるよう、 子供たちに無垢の色=白のリボンを腕に巻くという風習がありました。
それは親目線でいい子認定されるまで外されない、目に見える呪縛の印。
- 牧師の家で特に重視され、体罰に加えて白いリボンで戒めていた
- 小作人の家では、親の言うことを聞くよう体罰で躾けていた
- 無垢な心とはつまり、親の言うことを黙って聞くこと
子供にしてみたら、ますます不満が募るばっかじゃん。
うん。だからまた村でちょっとした騒動が起こっちまう。
そう。どうしても母親の死に納得がいかず、父親にも黙って耐えろ!とぶん殴られた小作人の息子が、新たな事件を起こしたのです。
エスカレートしていく村での事件
2つの事件が完全に風化してしまった数ヶ月後。
この日は男爵主催の収穫祭が行われていました。
- 1年の豊潤な実りに感謝して、大人は飲めや騒げの宴で上機嫌
- 小作人の息子は宴を抜け出し、男爵のキャベツ畑を荒らして台無しにした
- その頃ほかの子供たちは、集団でどこかに移動
あー…。とうとう不満が爆発しちゃった。
…男爵や家令に喰ってかかれないから、八つ当たりだな。
せっかく実った畑のキャベツを鎌で切り刻み、その姿を数人の村人に目撃されていた小作人の息子。
またもや親父さんに説教され、「僕がやりました」と自首します。
しかし畑荒しなど大した事件ではなくなるほど、次々ととんでもなく恐ろしい出来事が積み重なっていくんです。
- 男爵のご子息が誘拐され、逆さ吊り&ケツ鞭打ち状態で発見
- 男爵所有の納屋が火事で全焼(←おそらく放火)
- 牧師の飼っていた小鳥が、十字に開いたハサミで磔に
- 医師の手伝いをしている助産師の息子が行方不明になり、目を潰された姿で森に
なん…だ。これは……。
しかもどの事件も繋がりはなく、手掛かりも目的も分からないんだ。
こんな悪意に満ちた出来事が頻発し、怒りを露わにしたのが男爵です。
自分の村で不可解な事件が立て続けに起こり、そのうちの一件は愛息子が被害者だから。
- 牧師に指示して、教会で集会を開くことに
- もちろん村人は全員強制参加
- 特に愛息子いたぶり事件の犯人探しを強要
- 名乗り出るか村人全員で見つけ出すか、2つにひとつだと脅しをかけた
- 村人はこぞって不安に煽られ、誰が犯人か猜疑心に苛まれた
よそから凶悪犯が入り込んだ…とかはないの?
…小さな村だからな。不審者がいたらすぐ分かる。
…ということは、村人の誰かが事件を起こした ということ。
こうしていくつもの事件が起こった村は、不穏な空気に包まれます。
しかし村人の誰もが悪人でも善人でもありません。
みな規律や倫理に則した生き方をしているだけ。
…ただ絶対的支配や抑圧には誰しも不満があり、嫉妬や悪意が芽生えていたことは確かです。
そして村の中で1番弱き立場であり、無垢を強いられ何から何まで押さえつけられた子供たち。
彼らの小さな反発心が、おそらくこの村の事件の真相と関わりがあり…というのが大まかなあらすじになります。
数々の映画賞を獲得した2009年公開のモノクロ映画【白いリボン】
1913年・ドイツ。
名もないほど小さな村で、不可解な事件が頻発します。
犯人は誰か・動機はなんなのか。
大事なことに目を向けず、権力ある者の抑圧を受け入れることこそが正しく純粋な生き方だという思想が歪み、いくつもの事件に繋がってしまいます。
理不尽なことに声をあげることも出来ず、ただ大人と同じ思想に染められていく子供たち。
腕に巻かれた「白いリボン」は、まるでナチスがユダヤ人に星型の印を付けて弾圧する様子にも似た、屈辱の証のよう。
権威への絶対服従・抑圧の中で育まれる無垢な心が恐ろしい予告動画はこちら↓
【白いリボン】主な登場人物
今作【白いリボン】は、モノクロ映像にすることで20世紀初頭のドイツの片田舎の様子・重々しい雰囲気を演出しています。
さらに時代演出に欠かせない演技を魅せてくれた登場人物たちをご紹介いたしましょう。
教師は別の町から赴任してきた、いわばよそ者。
仮の村人なため、子供たちからはたいした権威もない大人とみなされています。
今作は、この教師の昔語り…という流れで物語が進み、ナレーションをエルンスト・アコビ氏が務めています。
医師は、この村で起こる不可解な事件の1発目の被害者。
医院を手伝う助産師とも実の娘とも肉体関係を持ち、権威をかざしまくるロクデナシです。
特に愛人の助産師に対しては、「皺が増えて醜く息も臭い」と言い放って捨てるので、嫌悪感しか湧きません。
牧師は特に倫理観や教えを子供に強いる厳格な存在。
ただ威圧的なわけではなく、とにかく回りくどい説教で子供たちを支配していきます。
言ってることが正論なため、余計やっかいな人物です。
男爵は、この村の最高権力者。多くの荘園を持ち、村の半数以上が何らかの形で男爵の使用人・小作人として働いています。
強欲で傲慢かというとそうでもなく、皆をねぎらう祭りを主催したり重労働を無理強いすることはありません。
それでも暗に威厳を示し、大人も子供も妻さえも支配しようとする、これまた厄介な人物です。
クララは牧師の娘であり、この村の事件全ての真相を知ってそうなティーンエイジャー。
都合が悪いことは無知なフリをし、誰よりも大人の汚さを理解する賢さがあります。
マーティンは牧師の息子であり、クララの弟のひとり。
黙って父親の教えに従うことが純粋で無垢なんだということを懸命に理解し、受け入れようともがいている少年です。
…と、この他には医師の愛人・助産師やその息子、男爵に媚びへつらう家令とその子供たち、村人カースト最下位の小作人一家などが登場。
あまりに淡々と、しかもやたら尺が長いので飽きちゃう方もいるかもしれません(笑)
それでも一つ一つの奇妙な事件が気になって、犯人は一体どいつだ!と予想する面白さが。
難しく考えると奥が深い作品ですが、あまり難しく考えずに観ても楽しめるかと思います。
【白いリボン】まとめ
終始モノクロームな映像で静かに描かれている映画【白いリボン】
ミステリーっぽくもあり、後味の悪いヒューマンっぽくもある不思議な作品です。
- 第一次大戦の前年、1913年のドイツの小さな村が舞台
- 次々に起こる不可解な事件の真相には、無垢な心の悪意が充満
- 事件の犯人は明かされないものの、薄っすら分かるという謎解き演出
- 厳格な教えに基づく正しき倫理の闇を描いた問題作
村で起こったひとつひとつの事件は、当事者にしてみれば大きな出来事です。
ところが傍観する大人たちは、もっと大きな出来事に関心を寄せ、過去に無関心になっていきます。
一方で、「無垢であれ」と抑圧され続けた子供たちは、その教えに従い過去にも関心を持ち続けます。
大人たちが忘れゆく出来事に理不尽さを感じ、不満や嫉妬心を抱くことに。
そして周囲の大人を真似するかのように誰かを・何かを抑圧支配し始めてしまうのです。
映画【白いリボン】は、強いられた「無垢」の思想・芽生えた邪心が、のちのナチズム思想・粛清の原点なのかも…という恐ろしさを感じる作品 でした。
映画【白いリボン】はこちらで配信中↓
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