予告動画を観ると、ちょっとホラーな人形劇。
しかしその実態は…キュートでコミカル、歌って踊れるガイコツたちが死人の世界に彩りを添えるエンターテイメント満載のファンタジー。
すでにCG映像技術もあったであろう2005年、ストップモーションアニメという方法で制作された映画【ティムバートンのコープスブライト】の世界へとご案内いたします。
【ティムバートンのコープスブライト】政略結婚の二人
よく「結婚は人生の墓場」って言うよねー。
今回の映画はその逆だな。
結婚に夢や希望や憧れを持つ方もいれば、人生詰んだ…と嘆く方もいたりします。
「死が二人を分かつまで」
誓いの言葉と指輪を交わし、添い遂げる結婚式という人生の一大イベントで、とんだ失態から花嫁2人、うち一人はすでに屍人という奇妙な世界。
映画【ティムバートンのコープスブライト】は、奇妙な世界の異形の者どもに命を吹き込み、愛を持って絶大な存在感を生み出す奇才ティム・バートン監督作の人形を使ったストップモーションアニメです。
《ストップモーションアニメとはなんぞや?》
- 背景美術以外のキャラたちを一コマ一コマちょっとずつ動かして撮影
- 最後に映像を繋ぎ合わせて滑らかに
- 1〜2秒のシーンを撮影するのに12時間かかることも
恐ろしいほど手の込んだ制作方法のこの映画、全編77分と短めですが皮肉とユーモアがたっぷり詰まっています。
主人公は箱入り息子
舞台は19世紀のヨーロッパ。活気があるとはいえない小さな街に、明日に挙式を控えた家族がおりました。
お♪幸せカップルの誕生?
いや、一度も会ったことない者同士の政略結婚だ。両家の都合ってやつだな。
新郎は気弱な箱入り息子・ヴィクター。両親は魚の缶詰で財を築きあげた、いわゆる成金商人のお坊ちゃまです。
- 両親は魚を缶詰にするのが生業=息子を家に缶詰め(箱入り)にするのも得意
- ヴィクター自身も青い蝶をガラス瓶の中で飼っている
- 何かに閉じ込めるという気質は両親譲り
お金はあるけど悲しいくらい品格のない両親は、ヴィクターを貴族のご令嬢と政略結婚させ、上流階級の仲間入りを目論んでいました。
ヴィクターは政略結婚に反発とかしなかったの?
まぁ、あんまり気乗りはしてなかったが、どちらかというと希望すら抱いてたかな。
気弱な性格ゆえに両親の言いなりで婚姻を承諾…してますが、両親に言われたからだけではありません。
箱入り息子と言う名の引きこもり青年ヴィクターは、大人になってもずっと箱入りのままで生きていることに若干の不安も感じています。
だから両親から解き放たれる結婚に、多少なりとも希望を抱いていたんです。
物語は、そんなヴィクターの心境を表すシーンから始まります。
- ガラス瓶で飼っていた青い蝶を解き放つ
- 解き放たれた蝶のように、ヴィクターも婚姻を期に両親から解き放たれる
- 自分で捕まえ自分で放った青い蝶には、自分で箱入りになって自分の意思で婚姻を決めた、という意味も込められている
- この蝶には、明日婚姻する相手への美しさと愛おしさも重ねられている
- フラフラと不安定な飛び方をする蝶は、ヴィクターの結婚生活への不安も表している
両親とは似ても似つかぬ穏やかな心優しい青年ヴィクターは、明日の式の予行演習をするために、初めて新婦のお屋敷に向かうことになりました。
蝶よ花よの箱入り娘
箱入り息子ヴィクターのお相手は、同じく箱入りで大事に育てられた箱入り娘・ヴィクトリア。
由緒正しき貴族のご令嬢ですが、すでにカツカツ、1ペニーの財産も無くなってしまった没落貴族の一人娘です。
ヴィクターにヴィクトリア?名前が似てるねー。
あぁ、「ヴィクター」の女性名が「ヴィクトリア」だからな。二人は似た者同士っていう暗喩的なネーミングになってるんだ。
- ヴィクトリアもちょっと気弱な大人しいお嬢様
- ヴィクター同様、両親の言いつけに従って政略結婚することに
- 本当は心から愛する人と結ばれる夢をみている
ヴィクトリアの両親は「結婚に愛などいらぬ」という虚栄心の塊です。
貴族という上流社会にしがみつき、いよいよシャレにならないほど没落しきってしまったので、不本意ながらも成金商人一家と姻族関係になることを決めました。
お屋敷は立派だけど、中はスカスカなんだね。
家財道具を売っぱらってしのいでたからな。玄関ホールのグランドピアノくらいじゃない?残ってるの。
グランドピアノは残されているものの、ヴィクトリアはピアノを弾くことを禁じられています。彼女のお母様曰く「音楽は情熱的すぎてはしたない」という理由。
愛ある結婚も音楽に情熱を求めることも禁じられ、まだ見ぬ殿方との婚姻を強いられて気落ちしていたヴィクトリア。
そんな彼女の耳に、素敵なピアノのメロディが聴こえてきます。
二人の出逢い
メロディに釣られて玄関ホールに向かったヴィクトリアが目にしたのは、おそらく自分の婚姻相手と思しき青年。
ピアノを弾いていたのは、上品のカケラもない両親の元で育ったわりには演奏が上手すぎるヴィクターでした。
美しいメロディとともに初対面って、なんかロマンチック♪
だな。お互いなんか気が合いそうって感じて、ちょっと一目惚れしてた。
勝手に他所様のお宅でピアノを弾いてしまったヴィクターは、声をかけられて驚きます。椅子を倒し、ピアノの上に飾ってあった一輪挿しもひっくり返してしまうほど。
- ピアノの上に飾ってあった一輪の花は、ヴィクトリアを象徴している
- ヴィクターはひっくり返した一輪挿しの花を大事に扱っている
ヴィクターに声をかけたのは、外観は立派だけど中はスカスカのお屋敷に住むヴィクトリア。
立派だけど誰にも弾かれないグランドピアノに飾られた一輪の花は、そんな彼女をこっそり表現しています。
その花を大事に扱うヴィクターは、きっとヴィクトリアのことも大事にする花婿になる、という演出にもなっていて、二人が初めて出逢うシーンはお互い好意を抱いた様子も描かれているんです。
こうして初対面は好印象、政略結婚もまんざらではない二人は、明日の式のリハーサルを行うことになりました。
【ティムバートンのコープスブライト】三角関係の花嫁は屍
結婚式のリハーサルは、ヴィクトリアのお屋敷に神父さまをお招きしての本番さながら本格仕様。
両家の両親に加え、胡散臭い貴族風情のアゴ長紳士・バーキス卿という顔ぶれが揃う中、ヴィクターとヴィクトリアは厳かに予行演習に臨みます。
没落してるとはいえ、貴族だから結婚式もしきたり多そうだねー。
…そうでもない。ごく簡単な流れだな。
- 新郎新婦でロウソクに火を灯し、三歩進んで宣誓
- 誓いの言葉は神父さまの言う通りにリピートアゲインすれば良い
- 指輪を交換して、誓いのキスで終了
人生の一大イベントなので、いくら簡単そうにみえても緊張して上手くいかないこともあります。
だがしかし。
ヴィクターはどこまでも鈍臭いのか、何度も何度も間違えて、リハーサルは3時間経っても終わりません。
挙げ句の果てにロウソクの炎でボヤ騒ぎまで起こし、神父さまはお怒りモード。明日に控えた結婚式は延期じゃ延期!と相成りました。
土の中から押しかけ女房
結婚式のリハーサルで失敗の連続だったヴィクター。神父さまには延期を言い渡され、きっとヴィクトリアも呆れてるに違いない…とちょっと凹んでおりました。
せっかくお互い結婚に前向きになってたのにね。
あぁ。だからこのままじゃマズいと思って、誓いの言葉の練習してたよ。
森の中で特訓を始めたヴィクターは、一人きりでこっそりやれば出来る子なのか、一言も間違えずに誓いの言葉を言うことが出来ました。
土から伸びた枯れ木をヴィクトリアの指に見立て、指輪の交換もバッチリです。
- おぅ、完璧!と思ったら…枯れ木がヴィクターをがっちりキャッチ
- 枯れ木と思って指輪をはめたのは、実はガイコツの指だった
- 土の中からウェディングドレス姿の半白骨美女が
ひぃぃぃぃーーーーーーっ。
…まぁ、そうなるわな。
世界一顔色の悪い一部白骨化した死者の花嫁「コープスブライト」
彼女はいつか現れる愛する花婿を待ちわびていた屍です。
- ヴィクターが一言も間違えずに結婚の誓いの言葉を口にした
- 自分の白骨化した指に結婚指輪もはめてくれた
- プロポーズされたと大喜びで土からモコっとご登場
鈍臭いヴィクターですが、このときばかりは大急ぎで逃げ去ります。
しかし長年花婿が現れるのを待ちわびて「ホネまで愛して」欲しいコープスブライトは、押しかけ女房さながらにヴィクターをとっ捕まえて誓いのキス。
さすがに失神してしまったヴィクターは、気付けば地中の奥深く、屍人の世界に囲われてしまいました。
複雑な男女関係
え。ヴィクター取り憑かれてあの世逝き!?。
…まだ逝ってないよ。
生者のまま屍人の世界に連れ去られたヴィクターが見たのは、なんともシュールな屍たちが集うパブ。
人生のしがらみから解放された屍人の世界の住人たちは、けっこう気ままに楽しく生きて(逝きて?)いて、コープスブライトもここの住人です。
- コープスブライト(死者の花嫁)の名はエミリー
- パブのガイコツ連中の話によると、エミリーはウエディングドレス姿で駆け落ちする予定だった
- 駆け落ち相手に持ち物を奪われ、襲われ埋められた
こんな悲しい過去を持ったちょっと強引な押しかけ女房エミリーですが、実はとても気の利く性格です。
今は亡き愛犬のガイコツを贈るなど、ヴィクターがこの屍人の世界で逢いたいのは誰なのかを見極める聡明さがあり、ピアノを嗜む一面も。
屍人の世界から自力で抜け出す方法が見つからないヴィクターは、次第にエミリーの良さも知り、ちょっと心が揺らぎます。
ヴィクトリアはどうするの!?ヴィクターこのまま屍パラダイスで一生を終えるの!?
…問題はそこだよな。
実は地上(生者の世界)では、花婿ヴィクターが行方不明!と大騒ぎ。居なくなったのをいいことに、ちょっと悪巧みを企んでいたアゴ長紳士・バーキス卿が新たなヴィクトリアの花婿に選ばれてしまいます。
- 三角関係がいつのまにか四角関係に
- ヴィクトリアの花婿が自分じゃなくなり、ヴィクター凹み中
- アゴ長紳士が相手の結婚なんてしたくないヴィクトリアも凹み中
- 実はエミリーも凹み中
なんでエミリーまで凹むのさ。
…誓いの言葉、「死が二人を分かつまで」だよな。エミリー屍だし。死を分かつこと出来ないだろ?
ヴィクトリアは両親の決めた婚姻は絶対なので、アゴ長を花婿に迎えなければなりません。エミリーはもはや屍なので、実はヴィクターの誓いの言葉は有効ではありません。
ヴィクターを花婿にするには、彼を同じ屍にするしかないことが判明するんです。
- エミリーはヴィクターを屍にしなきゃならないことに苦悩
- ヴィクターは「屍になってエミリーと添い遂げる」ことを決意
- 死せる結婚式の準備に取り掛かる
ヴィクターのこの決断は、ヴィクトリアが他の殿方と婚姻することになったからではなく、エミリーに同情したわけでもなく、彼の生い立ちが関係しています。
ヴィクターは、自ら望んで箱入り息子であり続けました。両親の囲いから解き放たれたいという願望もあってヴィクトリアとの政略結婚を受諾しましたが、不安が全くなかったわけではありません。
結婚すれば、自分を囲うものがなくなります。囲われている時の安心感を誰よりも熟知し、甘んじてきたヴィクターは、今度は自分を囲ってくれる存在がエミリーであることを無意識のうちに悟ったんです。
結婚して「解放されたい夢」を叶えてくれるのはヴィクトリアってこと?
そう。で、結婚しても「安心できる囲いの中」にいられるのはエミリーってことだ。
こうして気弱な性格のヴィクターは、本能的に守りの体制に突入し、死者の花婿に成るべく準備に取り掛かります。
しかし四角関係になったそれぞれに秘めた想いがあり、一筋縄ではいかない事態に発展していき…というのが大まかなあらすじになります。
見た目はホラー、中身はロマンス。キュートな屍人の花嫁【ティムバートンのコープスブライト】
両親の思惑で政略結婚が決まった若い二人。しかし鈍臭すぎる花婿は、とんだ災難も引き起こし、まさかの屍人の花嫁と婚姻関係に。
「愛のある結婚」を望む二人の花嫁の間で揺れ動く、気弱な花婿の決断と行く末を描いたハートフルなダークファンタジーの予告動画はこちら↓
【ティムバートンのコープスブライト】全員魅力的な登場人物たち
今作は、生者も死者も良くいえば個性的、悪くいえばアクが強い登場人物ばかりです。
どのキャラも本当に魅力的なので、主人公たるメンツをピックアップしてご紹介いたします。
ヴィクターは「冴えない・鈍臭い・引きこもり」と三拍子揃った箱入り息子でありながら、モテ期到来した主人公。
品が良く貴族出身の花嫁・ヴィクトリアとは控えめながらも互いを慈しむ信頼関係を築き、屍の花嫁・エミリーとは仲睦まじくピアノを連弾するシーンも。
そんなヴィクターの声は、ジョニー・デップが担当。ティム・バートン監督の実写映画でもたびたびタッグを組んでいて、若かりし頃の麗しのジョニデ様はこちらの作品で堪能出来ます↓
まぁジョニデ様は歳を重ねても相変わらずカッコいいんですけどね。
2014年にはこんな人工知能ネタのSF作品でも遺憾無くイケメンっぷりを発揮しています↓
エミリーは、屍人になっても愛する人との結婚を夢見るコープスブライド(死者の花嫁)。
なかなかゴーイングマイウェイな性格をしており、生きている頃は相当の美人でお金持ちのお嬢様でもありました。
ついもらい泣きしそうになる歌声も披露してくれるエミリーの声を、ヘレナ・ボナム=カーターが担当。
ヘレナ・ボナム=カーターは、アカデミー賞4部門受賞作「英国王のスピーチ」で、ジョージ6世国王の配妃エリザベスを演じたお方です。あらすじや歴史についてはこちらをどうぞ↓
ヴィクトリアは、本当は愛する人を見つけて末永く夫婦になることを夢見ていたご令嬢。
政略結婚とはいえヴィクターを愛する心を持ち始め、死者の花嫁エミリーから彼を助けようとする一面も。
大人しくおしとやかでありながら、芯が強く行動派でもあるヴィクトリアの声をエミリー・ワトソンが担当しています。
…と、この他にヴィクターの両親やヴィクトリアの両親、神父さま、街の住人、屍人の面々も多数登場。特に屍人の世界では人だけでなく蛆や蜘蛛といったキャラもいますが、不思議とグロテスクな感じはありません。
キモ可愛い連中が劇中で披露するアメリカンポップスのようなジャズのような、ミュージカルテイストの歌声もとても魅力的。
ダークファンタジーと言うと「おとぎ話だけれどちょっと怖い」というイメージですが、【ティムバートンのコープスブライト】は「おとぎ話だけれど映像が暗い」というほうのダークさ。
恐るることなく誰でも楽しめる作品 になっています。
まとめ
独特な世界観を持つティム・バートンらしさ溢れる、ちょっぴりシュールでスパイスの効いたストップモーションアニメ映画が【ティムバートンのコープスブライト】です。
- 舞台は19世紀、とある小さな街
- 成金一家の息子と没落貴族の娘の結婚が発端
- 死者と生者のまさかの三角関係
よくよく観ると「生者」の世界がモノクロで、「死者」の世界は色が溢れるカラーな演出。
ここにティム・バートンの不思議な世界観、異形の存在に対する深い愛情が表れてるなぁと感じました。
生者も死者もみんな人間味あふれていて、死人もガイコツだったり目ん玉取れたりと、見た目はアレですが(笑)だんだんキュートに見えてきます。
妙にツボるキャラクター、エンディングとオープニングがクロスするかのような演出、劇中に散りばめられたユーモアやなるほどと思うような伏線。
上映時間は77分と映画にしては短いんですが、ひどく手間暇かけた映像美に負けないくらい手の込んだストーリーがまた秀逸です。
映画【ティムバートンのコープスブライト】は、最後にはちょっぴり涙してしまう、切ない大人のファンタジー作品でした。
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