世界でも有名な日本の名所・富士山。
その麓には、鬱蒼と生い茂る青木ヶ原樹海があります。
身も心も、魂さえも解放されたいと願う人々が自らの命を絶つ森としても有名です。
心に憂いを抱えて樹海に足を踏み入れ、偶然出逢ったアメリカ人男性と日本人男性。
ふたりの姿を描いたヒューマンミステリー映画【追憶の森】の世界へとご案内いたします。
この記事でわかること
- あらすじ概要・出演キャスト
- 予告動画・動画配信サービス・DVD情報
【追憶の森】富士山麓・青木ヶ原樹海
青木ヶ原樹海って言ったら、人生に彷徨った方が魂も彷徨わせちゃうために訪れる場所で有名だよね。
ちゃんと観光地でもあるんだがな。
青木ヶ原樹海は、なにも生きることに疲れた方ばかりが訪れる場所ではありません。
神秘的な森には天然の洞窟も点在しており、迷子にならないよう散策路も設けられている日本有数の観光地でもあります。
でも、私が思い浮かべる青木ヶ原樹海ってこんなイメージなんですよね。
- コンパスが効かないので迷いやすい
- 電波も通じにくいので助けを呼びにくい
- どこもかしこも似たような樹木ばかりで方向を見失う
- とにかく広いから、野たれ死ぬ可能性大
- あえて生きて森を出る気がない方が足を踏み入れ、命を絶つ森
自殺の名所という、地元の方にとってはなんともありがたくない名所になっている青木ヶ原。今作【追憶の森】は、そんな日本の樹海が舞台 です。
映画【追憶の森】基本情報
追憶の森 | 2015年 アメリカ映画 |
ジャンル | ヒューマンドラマ |
監督 | ガス・ヴァン・サント |
脚本 | クリス・スパーリング |
上映時間 | 111分 |
出演 | マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ |
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【追憶の森】ひとりのアメリカ人男性
物語は、大きな喪失感に苛まれ、生きることに消極的になってしまったアメリカ人男性の旅の様子から始まります。
車内にキーを残したまま空港に降り立つひとりの男性。彼の名はアーサー。
旅行鞄も手荷物すら持たず、片道の航空チケット片手に彼が目指した旅先は、自殺の名所と名高い青木ヶ原樹海でした。
やっぱり目的は…。
うん。生きることを放棄するために樹海に来た。
観光客のために設けられた散策路を外れ、樹海の深部に自ら迷い込んだアーサーは、同じような目的で樹海を訪れた日本人男性に出逢います。
出逢いは偶然?それとも必然?
そもそも青木ヶ原は広大な樹海。
誰の目にも止まらずこの世を去りたい方々が多数訪れると言われてますが、同じ境遇の方に出逢うなんてことはそうそうありません。
でも誰かがここにいたっていう証が残されてたりはするんだよね?
そういう所有物や亡骸だって、簡単に目にするもんでもないらしいが。
そんな樹海で生きた者同士が出逢うなんてアリなの?という疑問が生まれますが、今作【追憶の森】はちょっとミステリーも混じったお話。
この出逢いが偶然なのか必然なのか、という謎を匂わせたまま物語は進みます。
アメリカからわざわざやって来たアーサーが出逢った日本人男性の名はタクミ。
彼もまた、命を絶つつもりで樹海にやって来た人物です。
- 日本人男性タクミは、両手首にいくつもの傷を負っていた
- アメリカ人男性アーサーは、少し気がかりになって話しかけることに
- タクミは死ぬつもりで樹海に入ったが、心変わりして森を出たがっていた
ついさっき足を踏み入れたばかりのアーサーは、自分が来た道をタクミに伝えます。
広く薄暗い樹海で一瞬の関わり合いを持った二人ですが、このままそれぞれの道を歩むことにはなりませんでした。
あっちに行けば出口って言われても、全部同じ景色にしか見えないんだけど。
そこが樹海の怖さだな。まんまと迷子になってたよ。
タクミは教えてもらった道を進んだものの、道を見失い再び二人は遭遇。
人が良いのか、放って置けないと思ったアーサーは、「生きて森を出たい」というタクミの願望を叶えるために、二人で森の出口を探し歩くことになりました。
【追憶の森】樹海を訪れた意味
一度は死ぬつもりで樹海に足を踏み入れたのに、再び生きたいと願うタクミに対し、アーサーは次第に興味が湧いてきます。
ポツリポツリと二人は会話を交わし、アーサーの回顧もまじえてそれぞれの思想が交錯。
タクミが死を願った理由やアーサーが樹海を訪れた理由も明らかになっていきます。
タクミの存在
タクミは今でこそ「生きたい」と願ってますが、死を求めた理由は何なのか。出口を求めて彷徨いながら、二人の会話が始まります。
っていうか、樹海で英語ペラペラな日本人に出逢うって違和感ありまくりだよね。
そこはタクミの死にたい理由から考察すると、なんとなく納得できるかも。
- タクミが死を願った理由。それは社内で窓際に追いやられたから
- おそらくタクミは語学も堪能、優秀な企業戦士だった
- 左遷の屈辱に耐えきれず死を願った、といったところ
アーサーにしてみれば「そんなことぐらいで…」と思う理由ですが、人の価値観は同じではありません。特にアーサーは文化も習慣も思想も異なるアメリカ人。
死に対する考え方も全く異なり、そこに今作【追憶の森】の大きなテーマが込められています。
価値観・死生観の違い
アーサーにはタクミの思想に共感出来る部分がありません。それでもなぜか惹かれてしまうタクミの存在。
樹海と同様に神秘的な存在感を放つタクミは、アメリカとは異なるこんな日本の思想の表れでもあるんです。
- 生き恥を晒すくらいなら、潔く散る、という一種の滅びの美学
- たとえ負けても美しい負け方なら良しとし、死に場所を自ら選択
- 亡くなった後も、魂はそこかしこに宿り自然とも共生
一方で、アメリカには死を悼むという思想がありません。
亡くなった後の魂は一旦神の御許に召され、煉獄と言う名の償いの場所で罪を浄化したら蘇る、という死生観。
だからお位牌に魂が宿るとして仏壇を構える日本のような考え方はなく、魂が草木や花や物に宿るという考え方もないんです。
さらに、生き抜くためにはすべての行動に正当な価値を見出そうとし、負けるのもイヤだが死ぬのもイヤだ、という価値観です。
じゃあなんでアーサーは死を願ってるの?
タクミのような挫折感からではなく、自分が生き続けることを正当化出来ない絶望感からかな。
アーサーの追憶
アーサーが樹海に来た理由。そこには妻の存在が大きく関わっています。
彼には、少しアルコール依存症の気があるけれど、共働きの妻ジョーンがおりました。
二人の間に子供はおらず、いつも些細な言い争いばかり。あまり夫婦仲は良くありません。
- 本当は互いを必要とし、愛している
- まるでゲームをするかのように意地を張り合う関係
- こんな関係になったのにも、それなりに理由がある
ギクシャクしてはいたものの、離婚という選択肢はなかった二人。どこかでやり直したい、二人で同じ方向を見つめて歩んでいきたいという願いがありました。
夫婦に転機が訪れる
奥さん、毎日カリカリしすぎじゃない?
アーサーにも原因があるんだが、奥さんの前頭葉に脳腫瘍が見つかったんだ。
ジョーンがいつでも攻撃的な態度を取るようになった原因。それは3年前のアーサーの浮気にありました。
それだけでもカリカリするには充分な理由ですが、さらにジョーンが患った脳腫瘍が彼女の思考判断力に影響を与えていたんです。
- 脳の前頭葉は、行動の結果を予想したり、より良い判断を下す能力に関係している
- 善悪や、類似性・相違性の区別の際にも前頭葉が関わっている
- IQが低下するわけではないが、精神的に柔軟性を欠いたり、言葉が少なくor多くなる
病気のせいで、なおさらカリカリしやすくなって文句ばっかり言ってたってこと?
…という設定だな。実際に脳腫瘍で判断力・思考力が低下するのかは良く知らないが。
共に歩んでいける時間も僅かかもしれない…。人生の終焉を身近に感じた夫婦は、お互いが抱く本当に大切な人への想いを思い出し、悔いのない人生を取り戻すことにいたしました。
絶望への扉
人は死を目の前に突きつけられて、ようやく大事な何かに気付く ことがあります。アーサーとジョーンの夫婦もまた然り。
お互いの存在が本当はかけがえのないものだと再認識した二人は、病気と闘い、改めて夫婦の絆を深めようと歩み出します。
え。でもアーサーが樹海に来たってことは…。
とてつもない悲劇に襲われたんだ。
- ジョーンの手術は無事成功。腫瘍も良性という検査結果
- 病気の恐怖も生きる希望に変わり、転院先でリハビリに専念することに
- 転院の移送中、ジョーンが乗った救急車が目の前で交通事故に
まるで付き合いたての恋人のように、お互いを知り合おうと前向きになったばかりの二人。
しかしアーサーを襲ったのは信じがたい絶望でした。
妻の願いと罪の意識
本当はとてもとても大切で、失いたくないと思っていた妻を目の前で亡くしたアーサー。
これまでの自分を振り返っても、どこにも自分を正当化出来る理由が見つかりません。苛まれるのは罪の意識ばかりです。
- ほんの遊び、出来心で妻を裏切り浮気したことへの罪の意識
- 仕事も、稼ぎより夢や希望を優先し続けたことへの罪の意識
- 優しさや思いやりをわざと表に出さずに接してきたことへの罪の意識
- 病気を境に、今頃になって妻を慈しもうと思い始めたことへの罪の意識
…随分とネガティブな。
妻を亡くした喪失感と、己の存在意義を見失って死を願ったんだな。
アーサーの心はどこまでも深い闇に覆われ、決意したのは生きることを放棄すること。
そしていくつもの正当化出来ない自分の行いの中で、最期となる「死」にはこうすることが正しいという理由を付けます。
…それが「青木ヶ原樹海」を選んだ理由に関わってくるの?
そう。病床で妻に言われたひとことに、死を正当化する理由を見出した。
病院のベッドの上で死にたくない。
せめてあなたは死に場所は自分で選んでね。
悔いの残らないように…
妻ジョーンのこの言葉がアーサーの心の闇と同化して、場所は自分で選んだんだから死ぬことは正しいとこじつけました。
そうして自殺の名所をググって出てきたのが「青木ヶ原樹海」だった、というわけです。
ググって検索結果で出てきちゃうんだ…。
嬉しくないけど、日本以外でも自殺の名所で知れ渡ってるんだな。
でもなぜアーサーはよりによって青木ヶ原樹海を選んだのか。なにもわざわざ来日しなくても。
そこには妻が残した「ベッドの上で死にたくない」という言葉に答えが隠されています。
日本にはこんな考え方がありますよね。
妻の言葉の中には日本人の思想が反映されており、今作【追憶の森】の根底にあるのが日本の死生観なんです。
そんな日本の思想をそこかしこに張り巡らせ、謎を紐解きながらタクミとの出逢い・生と死の狭間で深い闇に堕ちたアーサーの心の変化も徐々に解明されていく…というのが映画【追憶の森】の大まかなあらすじになります。
【追憶の森】生死を行き来する登場人物たち
映画【追憶の森】は、多くを語らない会話や回想から物語を紐解く作品です。
静かに淡々と流れる世界観を作り上げた、数少ない登場人物をご紹介いたします。
アーサーは死に場所を求めて青木ヶ原樹海にやってきたアメリカ人男性。
大学で物理学の非常勤講師をしており、研究や論文に取り組むことには熱心です。
仕事に高い金銭的価値を求めておらず、いつまでも好きなことに取り組みたい夢見がちな一面があります。
絶望と孤独と罪悪感。暗く深く広がるアーサーの心の闇を、マシュー・マコノヒーが憂いのある表情や仕草で見事に表現しています。
タクミは死を求めて青木ヶ原樹海に足を踏み入れた日本人男性。
両手首にはいくつもの自傷の跡、薄暗く肌寒い樹海をスーツ姿で彷徨うという、見るからに生きることを放棄した人物です。
そんな姿でありながら、樹海で出逢ったアーサーを道連れに森を出ようと試みます。
青木ヶ原樹海は、踏み入ったものの自殺を思い留まる人々も実際多くいるそうで、タクミもそんな思い留まった人々のうちのひとり。
今作【追憶の森】制作にあたり、まず最初にキャスティングされた渡辺謙さんがタクミを演じています。
なぜアーサーが樹海でタクミに出逢ったのか。最後にため息が出るほど見事な演技でタクミの存在を表現しています。
ジョーンはアーサーの妻。かなり嫌な性格をしています。
共に外出すれば他人にも夫の不満を漏らし、帰宅すれば壁に掛けたコートをわざと落とし、ホワイトボードのアーサーの数式も指でなぞって消し去ったり。
つまらないことにいちいち腹を立てる気の強い女性ですが、病気を境に心を入れ替えます。
ジョーンの浮き沈みの激しい感情をナオミ・ワッツが好演し、淡々と進む物語に変化をもたらしています。
…と主要な登場人物はこの3人しかおりません。
アーサーの教え子・夫婦共通の知人・病院の医師なんかも登場しますが、物語に華を添えるわけではなく、あくまで話の進み具合に必要だからといった程度。
日本人俳優は終盤に鶴見辰吾さんも出演していますが、今や日本人ハリウッドスターに上り詰めたケン・ワタナベの演技力に圧倒される作品 かと思います。
まとめ
悔いのない人生を歩みたいと願うのは、誰もが持つ想い。
「あのときこうしていれば…」「どうしてもっと…」
やりきれない後悔の念に押し潰され、心の行き場を失ったアーサーがたどり着いたのは富士の樹海でした。
- 舞台は日本の富士山麓・青木ヶ原樹海
- ひとりのアメリカ人男性が死に場所を求めて来日
- たとえ煉獄に堕ちようとも、耐えきれない悲壮感から逃れる手段に死を選んだ
- 訪れた樹海で日本人男性と出逢い、死生観が変化
重苦しい自死がテーマのストーリーですが、樹海を舞台に神秘的な世界観が広がっています。
少し謎めいたヒューマンドラマは、その謎の答えが明確に表現されているわけではないので腑に落ちないと感じる部分もあるかもしれません。
ですが自殺の名所を死の象徴に、偶然出会った日本人男性を小さくても温かい生の光の象徴として描き、生と死の両局面を神秘的な青木ヶ原樹海の映像の中に閉じ込めた作品に仕上がっています。
映画【追憶の森】は、「なぜ」という謎の答えを探しつつ、温かな生の光を感じる作品でした。
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