耽美で難解、されど華麗な色彩美が芸術的。
鈴木清順監督は、世界中の映画ファン・映画人に愛される作品を生み出した日本映画界の名匠です。
映画のみならず、TVドラマやアニメ監督・CM演出・シナリオ執筆・俳優業などなど、本当に多彩な才能をお持ちのお方。
座右の銘は、” 一期は夢よ、ただ狂え ”
まさにこの言葉を閉じ込めたような代表作、鈴木清順監督の(大正)浪漫三部作まとめをお届けします。
この記事で分かること
- 鈴木清順監督の大正浪漫三部作
- 映画ツィゴイネルワイゼン/陽炎座/夢二
- …のあらすじ概要・見どころ
- 予告動画・DVDブルーレイ情報
ツィゴイネルワイゼン (1980)
映画【ツィゴイネルワイゼン】は、原田芳雄主演の浪漫三部作の第1作目。
鈴木清順監督作の中でも1番人気、ベルリン国際映画祭・審査員特別賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞している作品です。
映画タイトルの【ツィゴイネルワイゼン】は、「ジプシーの旋律」という意味のドイツ語。
スペイン出身のバイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテが作曲した曲名で、自作自演の録音にサラサーテの謎の呟き声が入っちゃってるんです。
そのエピソードから執筆した、内田百聞の短編小説『サラサーテの盤』が原作となっています。
- ジプシーの如く、気ままに各地を旅する中砂
- 彼は親友の青地との旅先で、小稲という芸者と知り合った
- その後、中砂は小稲にそっくりな良家の子女・園と結婚
- 中砂は、豊子という娘が生まれてもフラフラと旅へ
- あるとき中砂が持ち帰ったスペイン風邪で園が他界
- 幼い娘の乳母として、小稲を家に入れていた
- そんな中砂は相変わらず出歩き、旅先で薬物事故死
- それから数年。中砂の娘を連れた小稲が青地邸を訪れた
自由奔放で男臭く、野性的な魅力に溢れる中砂。
彼の持つサラサーテ自らが演奏した、「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを取り巻く男女の妖艶な関係が描かれています。
…が、ぶっちゃけ内容は二の次で←おい
幻想的かつ怪異的な、映像演出が最大の見どころです。
これぞ清順美学の真骨頂。観る者に強い衝撃を与え、知性をくすぐる芸術傑作。
映画【ツィゴイネルワイゼン】
監督 : 鈴木清順
出演 : 原田芳雄、大谷直子、大楠道代、樹木希林ほか
上映時間 : 145分
サラサーテの自作自演『ツィゴイネルワイゼン』はこちら↓
陽炎座 (1981)
映画【陽炎座】は、松田優作主演の浪漫三部作の第2作目。
日本アカデミー賞で数々の賞を受賞した名作です。
明治後期から昭和初期にかけて活躍した、ロマン主義の文豪・泉鏡花の短編小説『陽炎座』が原作。
物語を大きく膨らませ、美しく儚く妖しげに仕上げた監督の手腕に感嘆するかと思います。
- 1926年、大正末期。新派の劇作家・松崎が主人公
- 彼はあるとき、落とした付け文が縁で美しい女性・品子と出会った
- その後も偶然にしては出来過ぎな再会を二回も
- 三度目には一夜を共にする仲となるも、逢瀬の部屋に違和感が
- 部屋は松崎のパトロン・玉脇邸の一室にそっくり
- 不思議体験はなおも続き、松崎は祭囃子に導かれて奇妙な芝居小屋へ
- そこは妖が集う「陽炎座」という場所だった
怪奇とロマンティシズムが融合した、大正ファンタジーといったところでしょうか。
あの世ともこの世ともつかぬ異様な世界で、生と死の境を彷徨うお話です。
主人公・松崎を演じた松田優作氏は、当時アクション俳優として名を轟かせていた名俳優。
清順監督の大ファンだという彼に対し、清順監督は直径1mの円を描いてこんな指示を出したそう。
「この中から出ないような演技をしてください」
監督の求める繊細さを表現し、新境地を開いた松田優作氏の演技が見どころです。
幻覚と幻聴が織りなす迷宮に迷い込んだ、ある男の摩訶不思議なお話。
映画【陽炎座】
監督 : 鈴木清順
出演 : 松田優作、大楠道代、楠田枝里子、原田芳雄ほか
上映時間 : 139分
夢二 (1991)
映画【夢二】は、沢田研二主演の浪漫三部作の第3作目。
抒情的な美人画の画家であり、詩人でもある竹久夢二をモチーフにしたオリジナル脚本作品です。
愛憎と悪夢がひとつに繋がり、幻想的ながらも少々滑稽さを感じるお話になっています。
- 1917年。大正6年の金沢が舞台
- 夢二はこのごろ、正体不明の男に額を撃ち抜かれる悪夢に襲われている
- いささか精神も錯乱気味だが、女性との色恋沙汰は欠かさない
- 病弱な恋人・彦乃と駆け落ちするため、ひと足先に金沢へ
- しかし彦乃は現れず。金沢の村では銃による事件が発生
- 痴情のもつれで松という男が、巴代という女性の亭主を殺したらしい
- 夢二はその村で巴代に出会い、惚れた腫れたの関係に
- ところが殺されたはずの巴代の亭主が現れ、悪夢に出てくる男その人だった
夢二にとって女性とは、その人個人を好いたわけではなく、「女性」だから好いた節が。
それでも女性たちは夢二に惚れ、絵のモデルになり、彼女たちを愛する男も含めた複雑な人間関係が築かれていきます。
当時42歳、ダンディさが和らいだ沢田研二氏は、まさにこの作品の夢二そのもの。
清順監督の巧みな映像演出と、出演者全員の圧倒的存在感が見どころです。
悪夢に襲われるのは、後悔なのか懺悔なのか。それとも才能への渇望なのか。
芸術家として苦悩しながらも、女性が惚れてしまう色香を漂わせる男の物語。
映画【夢二】
監督 : 鈴木清順
出演 : 沢田研二、毬谷友子、長谷川和彦、広田玲央名、原田芳雄ほか
上映時間 : 128分
…ということで、鈴木清順監督の大正浪漫三部作についてお届けしました。
どこかノスタルジックで幻惑的、御伽噺というより百鬼夜行。
観てすぐストンと落ちてくる分かりやすさはなく、シーンによっては伏線なのか間延びした演出なのかも判断できません。
ただ清順監督は、難しいことでも伝わるときは伝わるという、理屈より感性重視の作風が持ち味です。
内容訳分からん…でも、色使い・カメラワーク・舞台となる場所の美しさ・小道具へのこだわりなど、美的なことなら感じ取れるかと。
難解ながらも味わい深い、鈴木清順監督作に触れていただけたら、恐悦至極にございます。
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