過去に1度TV映画化され、新たに2部作品の劇場映画化もされたS・キングの長編ホラー小説『IT』。
実は有名な読み聞かせ民話から着想して作られた物語です。
ということで、「REONさんのS・キングのインスピレーションは∞」をお届けします。
S・キングの小説『IT』の着想はここから
数々の大ヒット作を生み出しているアメリカのモダンホラー小説家スティーブン・キング。
全部は読んだことないんですが、読書好き・ホラーやサスペンス好きの私はいくつか彼の小説を読んだことがあります。
中でも最近ようやく読み始めたのが、文庫本で4巻にもわたる『IT』
劇場版映画で話題だもんねー。
…映画のペニーワイズ怖すぎだがな(汗)
子供にしか見えない恐怖の象徴・ピエロ姿の"それ"
ノルウェーの民話『3匹のやぎのがらがらどん』からインスピレーションを受けて生まれた そうなんですが…
はてさて元となった民話はどんなお話なのか、ちょこっとかいつまんでお話しいたしましょう。
『3匹のやぎのがらがらどん』はこんなお話
とある草原に、3匹のヤギが住んでおりました。
1匹はまだほんのり鼻先がピンク色の幼い子ヤギ。
もう1匹は少し身体も大きくなり、ツノも生え始めた思春期のヤギ。
そしてもう1匹は、立派なツノに顎ヒゲのような毛も生えた、大きくてたくましいアダルトなヤギ。
どのヤギも名前は同じ「がらがらどん」です。
がら(小)・がら(中)・どん(大)かと思いきや、どのヤギも同じ名前とは。
なんとも紛らわしいやつらですね。
そんな、呼んだら一斉に振り返っちゃうであろう3匹のがらがらどん。
ある日こんな会話を交わします。
お腹空きましたねー。
この辺の草って食べ応えないしなー。
よっしゃ。あの丘の向こうの美味しい草食べに行くぞ。
3匹のがらがらどんは、美味しい草を食べて太るため。
ちょっとお出掛けすることに。
ところが目指す草場に辿り着くには、途中で小さなボロい木の橋を渡らなければなりません。
この橋を渡れば、美味しい草が待ってるぞ。
でもみんなで渡ったら、橋、壊れちゃわね?
じゃぁ1匹ずつ渡りましょう。まずは1番小さなボクから行きますね。
橋はカタコト、カタコト。
小さな音を鳴らしながら揺れ、がらがらどん(小)が渡り始めます。
…するとそこに、なんとも恐ろしく低音ボイス、しかも臭そうな怪物の影が。
実はこの橋の下には、大きくて醜いトロルが住んでいたのです。
魔物トロルと遭遇その①
棲家の頭上の木の橋から、カタコト音がしてやかましいと思ったトロル。
誰かがオレ様の縄張りに入ってきた(怒)と、大きな声で怒鳴ります。
だー💢。うるさい!だれじゃワシの橋を鳴らすんは!!
ひっ(涙目)ボクです。小さなヤギのがらがらどんです…。
まさか橋の下から怒鳴られるとは。
これにビックリしたがらがらどん(小)。
か細い声で名前を名乗り、太るために丘の向こうの草場に行くことを伝えます。
あ”?丘の向こう?お前さんは今ここで、ワシに喰われるから辿りつけんさ。ガハハッ。
…でもこのあと、ボクより大きくて食べごたえあるヤギが来ますよ…。
………………。
…がらがらどん(小)が仲間を売った(笑)
さっそく何も言えねぇ展開の始まりです。
まぁどう見ても自分より大きな身体、大きな牙を持ったトロルが相手。
ひと飲みされそうな恐怖に怯えたがらがらどん(小)が、後から渡る予定のヤギの存在を明かすのも無理ありません。
うん?そうなのか?じゃぁ…行ってヨシ!
こうして、がらがらどん(小)は無事に橋を渡りきり、トロルは次に来るらしいヤギの出番を待つことにいたしました。
魔物トロルと遭遇その②
がらがらどん(小)の次に橋を渡ったのは、がらがらどん(中)です。
さっきよりも橋は軋み、ギシギシ、ゆらゆら。またしてもトロルの頭上からは耳障りな音が。
さっきのヤギの言う通り、また誰か来たな。今度は誰だ!
わっ!?なに、え?オレ?がらがらどん(中)さ。
がらがらどん(小)よりも多少は肝がすわっている、がらがらどん(中)。
それでもやっぱりいきなり大きな声で呼び止められて、ちょっとビックリしてしまいます。
っていうか、さっきのがらがら(小)の一件は見てなかったんかい…。
危機感足りないヤギどもですね。
おー。なかなか喰いごたえありそうなヤギだな。どれ、ひと飲みしてくれよう。
あー…。えーっと、このあともっと大きくて立派なヤギ通るよ。
……またしても仲間を売ったヤギ登場(笑)
これを聞いた怪物トロルは、さらに大きいのが来るのかと、今度もヤギを見逃すことに。
おぉ。そうかそうか♪じゃぁ…行ってヨシ!
こうして2匹めのヤギのがらがらどん(中)も、無事に橋を渡りきることに成功いたしました。
魔物トロルと遭遇その③
仲間を売って無事にトロルの危機を回避した、がらがらどん(小)・がらがらどん(中)
いよいよ1番大きなヤギのがらがらどん(大)が、最後に橋を渡ることに。
硬い蹄でガタガタ、ゴトゴト。
橋を大きく揺らしながらトロルの頭上までやって来ます。
よしキターー。大きな獲物♪大きな音でワシの橋を通るのは誰…。
我、1番大きなヤギのがらがらどんである!
………って、え。デカッ!!
たしかにさっきのヤギの言う通り、さらに大きなヤギが参上します。
しかし巨漢のトロルにとって、これは予想外。
いや、聞いてないよ、ゴッツい角生えてるとか。
あ…れ?これ勝てるかな…とトロルはちょっと気弱になるものの、大きな声でこう叫びます。
く…食いごたえ抜群そうだな((;゚Д゚))))ガクブル
お前こそ、切り刻み甲斐ありそうだな。
ぐぬぬっ。き…キサマなんぞ、ガブリと喰ってやる。
…ほぅ。ならば我も立派なツノで目を串刺しに、硬い蹄でその肉も骨もバラバラにしてやるぜ!!
そう言って、がらがらどん(大)は勇ましく飛びかかり、宣言通りにトロルを木っ端微塵に撃破します。
「次にもっと大きいのが…」というヤギの意見を素直に聞いて、案外優しく見逃していたトロル。
喰い意地張ったおかげであえなくお陀仏となりました。
そうして無事に橋を渡りきった3匹は目的の草場へ。
もう動けないくらいたらふく美味しい草を食い散らかし、丸々太っていつもの草原に帰っていきましたとさ。
おしまい。
S・キング恐るべし
さて、読み聞かせるにはなかなか残虐・ホラーな結末だった『3匹のやぎのがらがらどん』
果たしてこの民話、どうS・キングの脳内で"IT"に変換されたんでしょう。
全っ然お話違うんだけど。
まぁ、このお話がモチーフっていうより、S・キングの発想力の賜物だからな。
…そこには実体験からふと思いついた 、というこんな逸話があります。
- 1978年ごろ、S・キングはコロラドに住んでいた
- ある日お出掛け中に車が故障。徒歩で帰宅することに
- 帰路の途中に古い木の橋が
- 『3匹のやぎのがらがらどん(The Three Billy Goast Gruff)』のお話を不意に思い出した
- 怪物トロルが出て来るんじゃないかと妄想。その怖さを新たなネタにと思いつく
- 橋…橋の下に棲む怪物。橋なんて普段あまり見ないしなーと思案
- 都市の下に怪物が棲むとしたら…下水道か!と思い付く
- ヤギはみんな同じ名前だし、小さなヤギは子供、大きなヤギは大人かな、と構想
- ってことで、成長して怖さを克服する物語に
…これまたほんと凄い想像力だねー。
…で、トロル=殺人ピエロってことか。インスピレーション半端ないな。
そして誕生したのが、1986年に発表したされた長編小説『IT』ということに。
こういうエピソードを聞くと、なんとなく繋がりも分かるっちゃ分かる気がいたします。
言われてみれば「あー…」ってところでしょうか。
「IT」と「がらがらどん」に共通する教訓
そもそも童話や民話には、ちょっぴり教えが込められています。
『3匹のやぎのがらがらどん』は、見方によっては仲間を売った非道なお話にも取れますが、教訓としてはこんな感じ。
今は無理なら、出来る立場になってからやればいい
仲間を売ったんじゃなくて…。
「がらがらどん」って同じ名前は、同じ存在を表してたんだな。
さらに橋を渡る行為は人生の歩み、あとのヤギへ押し付けたのは最善の時を待つための行動、さらにトロルをバラバラに打ち砕いたのは、完全に克服したことを表しています。
そしてS・キングも長編小説『IT』も、ちゃんと『3匹のやぎのがらがらどん』の教えを込めてホラー小説に仕上がっているんです。
- 身体が小さいうちは、弱くて敵わない→今は無理せず逃げるが勝ち
- 大きくなれば力も付き、さらに知恵もつく→むかし出来なかったことも出来るようになる
だから小説『IT』には、子供時代と大人時代のストーリーがあるんだ。
深追いせず、大人になって再び集結して克服…っていう辺りは、民話の教訓に通づると思わない?
…ということで、巷を賑わす殺人ピエロ・ペニーワイズの物語誕生秘話をお届けしました。
短く単純な民話から、あんな壮大な物語を紡ぎ出すとは。
さすがホラー小説の巨匠。S・キング恐るべし。
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