無駄にリアルな魚感。
まんまる眼にプックリ唇のシュールな無表情から滲み出るのは、愛嬌と悲壮感です。
ホラーな見た目もよくよく見ると被り物感満載、笑いも感動ももたらす2015年公開の韓国映画【フィッシュマンの涙】の世界へとご案内いたします。
この記事でわかること
- あらすじ概要・出演キャスト
- 予告動画・動画配信サービス・DVD情報
【フィッシュマンの涙】人+魚=人魚…ではなく魚人
…なんだこのびっくり人間は。
あ。彼ね、突然変異で顔だけお魚さんなんだよー。
一体どんな突然変異だよ。生まれつきなのか?
…というとそうではなく、とある薬の副作用。
下半身が尾ヒレの人魚ではなく、残念ながら上半身がお魚化してしまいました。
これは相当ガツンとくるビジュアル。
「顔がリアルに魚」の青年を巡って見えてくる、社会問題を鋭い角度で風刺した韓国映画が【フィッシュマンの涙】 です。
映画【フィッシュマンの涙】基本情報
フィッシュマンの涙 | 2015年 韓国映画 |
ジャンル | コメディ・ヒューマンドラマ |
監督 | クォン・オグァン |
脚本 | クォン・オグァン |
上映時間 | 92分 |
出演 | イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ポヨン他 |
動画配信サービス | Amazonプライムビデオ(prime対象) |
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【フィッシュマンの涙】あらすじ
物語は、ひとりの青年の様子から始まります。
- 彼の名はサンウォン。ドキュメンタリー報道記者になりたい地方大卒の若者
- 就職面接を受けた韓国ABSテレビ局の報道部長から、仮採用の条件提示が
- 面白ネタがあるから、隠密に取材してきて欲しい
- 取材内容は「彼氏は魚男」と、ネットをザワつかせている炎上ネタについて
- 局のカメラを使って取材し、スクープを取れれば仮採用内定
真相を究明し、公にする仕事がしたいサンウォンにしてみれば、これは願ってもないチャンスです。
すぐにでもやりたい仕事内容、こういうネタは大好物。
ということで、サンウォンは報道部長から手渡されたカメラ片手に、まずはネットカフェで炎上ネタの情報収集とまいります。
…すると、出るわ出るわ、魚男ネタを叩きまくってる書き込みが。
…これ、炎上ネタを書き込んだ女性の情報まで晒されてるのか。
おかげで接触したいネタ元の女性宅情報も楽々ゲットだよー。
ネットの私刑は怖いですね。
晒された住所を元にサンウォンが訪れたその先は、玄関や壁一面に心無い言葉がびっしり。
すでに行動派のネット民から、落書きという手痛い攻撃を受けたあとでした。
- たしかにここは「彼氏は魚男」を自称するジンというネタ元の女性宅
- サンウォンが取材を申し込んだところ、いろいろと詳細が明らかに
- まず魚男は「彼氏」ではなく、飲み会の勢いで一夜を共にしただけの間柄
- その時はまだ人間、パク・グという若者だった
…あ。あぁ、魚の姿のmen’sと交わったわけじゃないのか。
でも、たった一晩の関係なのに、びっくり人間の姿で頼られちゃったんだってさー。
ジンが「魚男」と呼ぶ男の名は、パク・グ。
彼の悲劇の始まりは、就職に失敗してフリーターとなったことから始まります。
- アルバイト感覚で30万ウォン(=3万円くらい)の報酬目当てで新薬の治験に参加
- 新薬治験に参加したのは1000人ほど。その中でパク・グにだけ副作用が
- その副作用というのが、どう見ても生臭い魚にしか見えない顔面魚化の突然変異
- 新薬を開発した製薬会社は原因究明のため、パク・グを拘束
- パク・グは人体実験から逃げ出したものの、自宅はバレてて行くあてがない
- …ということで、魚顔の状態でジンの元へ
…で?そのジンを頼ってきた魚男は今どこにいるんだよ。
めんどくさいから、ジンが製薬会社に売っぱらったー。
………は!?
そもそも「彼氏が魚男」という情報も、ちょっと盛ってバラまいたもの。
そんな彼女から「魚男はいます」「お金欲しさに売っぱらった」と言われても、にわかには信じられないお話です。
- 気の強いジンは、胡散臭い眼差しを向けるサンウォンにカチンときた
- ドキュメンタリーの取材ということなので、サンウォンに真相を暴いてもらおうと画策
- 出前のフリして2人で製薬会社の研究室へ
- …とそこにはまごうことなく顔が魚・身体が人間の半身半獣の姿が
…これまた酷い扱い受けてるな。
拘束具でベッドに縛り付けられるもんねー。
炎上ネタ女子・ジンへの隠密取材から、さらにとんでもない映像をゲットしたサンウォン。
彼の撮った映像は、ABSテレビ局を通して瞬く間に世間さまに広く拡散されることに。
そうして炎上ネタの渦中の人物・魚化した若者パク・グの存在は、社会を大きく揺るがすこととなっていくのでございます。
社会現象と闘いと憂い
ひとりの女性の書き込みから、一気に拡散した「彼氏は魚男」というネタ。
もはやこれは単なる戯言ではなく、見過ごせない社会現象へと発展します。
そう。
魚男を通じて見えてきたのは、若者の深刻な悩み。
- 学費の工面のために、安賃金でバイトに明け暮れる学生がほとんど
- おかげで学業に専念できない
- そもそも若者の失業率が11%もある
- 安定職の公務員試験の倍率はなんと93倍の狭き門
こんな就職難事情もあり、フリーターになるしかない若者が続出。
命懸けの治験バイトに臨んだパク・グに共感する者がどんどん増え、一大社会現象が巻き起こります。
パク・グは街を歩けばサイン攻めにあい、魚男グッズも飛ぶように売れ、人気はうなぎのぼり。
さらに魚男の生い立ちまでクローズアップされ、どんな人間時代だったのかまで注目されるように。
…若者だけじゃなく、老若男女問わずすごい人気だな。
魚男人気の反動で、製薬会社の新薬研究も矢面に立たされたけどねー。
- パク・グ魚化の原因となった新薬を開発したのはビョン博士
- 元々は将来の食糧危機への備え・非常食の研究だった
- タンパク質が体内で自己増幅してうんたらかんたら…という理論らしい
- とにかく有益な人体細胞増幅に役立つらしく、どこがどうなったのか1人だけ魚化
- おかげで製薬会社はどこぞの大企業に買収される羽目に
世間では、やれ学歴社会が悪いだの、やれ低賃金が問題だのと議論が勃発。
さらには、医療の進歩のためには人体実験も許されるのか!と大騒ぎになってしまいます。
今まで見過ごされてきた問題もクローズアップか。
ついでにジンも有名人になっちゃったみたい。
とはいえジンは、有名になりたくて魚男情報を拡散・炎上させたわけではありません。
実は彼女も、学歴社会や低賃金で憂き目に遭った若者のひとり。
ネットを荒らすことで、憂さ晴らしをしていたに過ぎませんでした。
- ジンは、あんな酷い人体実験されてたとは思っていなかった
- 魚男を売っぱらったことを後悔
- 人でも魚でもなく行き場のないパク・グの生き方に共感
- なぜああなったのか真相を知りたいサンウォンとジンは、協力して魚男をサポートすることに
- 行くあてのない魚男はサンウォンの家に居候することに
こうして魚男との奇妙な共同生活が始まりますが、問題は山積み。
世間が魚男に注目すればするほど、彼らは社会の闇の深さを知ることになるのです。
簡単でも単純でもない人間魚化問題
新薬治験で人間が魚に。
その存在が明るみになったことで、魚男も彼を取り巻く環境も、どんどん新たな変化を迎えます。
- サンウォンはABSテレビ局の仮契約社員となり、独占取材を続行
- 局の名は伏せたまま、自宅でドキュメンタリー映像を撮ることに
- ジンは魚男の顔に霧吹きのサポート
- というのも、日に日に魚化が進行
- 顔だけ魚とはいえ潤いが大事
…なんかオッサンが乗り込んで来たぞ。
あ、魚男のお父さん!ヨボセヨ〜。
悠長にご挨拶する間もなく、もういきなり魚頭をスパーん!と一発叩いたお父さん。
このお父さんの出現から、サンウォン・ジン・魚男は、厄介な大人たちの思惑にも飲み込まれることに。
【魚男のお父さんのお小言】
- 金を稼いでこいとは言っとらん。治験なんぞやりおって
- 落ちても落ちても勉強して公務員になりゃいいんだ
- で、あんたら誰?ドキュメンタリー取材?
- そっちの女子は何者だ。友達?恋人か?
- 大学生か?え、やめた?最近の若いもんは我慢弱くてダメだ
- 今からでも遅くないから公務員の勉強しなさい
お、お父さん…アクが強そうで何も言えねぇ…。
もう一人、ちょっとどうなのよって大人も出てくるよー。
- 話題の人・魚男の人権擁護を謳う弁護士が
- VS製薬会社の訴訟を起こし、勝訴に持ち込む気満々
- やかましいお父さんは、それでいくら賠償金が貰えるか金勘定
自分の実績目当ての大人、お金目当ての大人。
2人の厄介な大人が加わり、裁判沙汰になるという話題が魚男への世間の注目をさらにヒートアップ。
とはいえ、「おたくの新薬は魚化する劣悪な医薬品」の烙印を押され、評判ガタ落ちの製薬会社も黙っちゃおりません。
…風向きが変わった?
魚化の副作用があったとはいえ、ビョン博士の新薬研究は、元々は有益なものだからねー。
なんと。
製薬会社側は報道機関を最大限に使って、情報の受け取り方を操作。
魚化したのはパク・グだけ、副作用が起こることは極めて稀である事実を公表します。
新薬は、韓国科学会が世界の最先端を行くチャンス。
人類の未来に役立つ新薬開発を優先すべきだ、と、声を大にして訴え続けたのです。
- ジンは魚男を人らしい姿に戻したい
- …が、頭蓋骨まで魚化し、医者による治療法はない
- お父さんは人間らしい生活を送るためには金・金・金
- ジンとお父さんで意見が真っ向に分かれ、内輪揉めすることに
- 弁護士は敗訴確定になりそうなので、示談に持ち込む計画に変更
- サンウォンは正規社員に目を付けられ、隠密の取材内容を横流しされた
- 世間では、魚男擁護派と否定派の間で大暴動が
- 自分の存在が大きな社会問題に発展してしまったことを苦に、魚男は首を吊ることに
- ただしエラ呼吸のため、魚男の命に別状はない
こうして事がどんどん大きくなっていき、命を絶つことさえままならなかった魚男パク・グ。
自分が生きている理由を考えた彼は、ある一大決心をすることに。
涙も流せない魚の目から、まるで涙がこぼれ落ちているかのように見える彼が迎える結末は…というのが大まかなあらすじになります。
【フィッシュマンの涙】主な登場人物
医学の進歩のためと取るか、単なる人体実験と取るか。
新薬治験は、実際にあるお話です。
もしもこんな副作用があったら怖すぎる…。
笑いと刹那と感動で、人間味溢れるヒューマンドラマに塗り替えた、登場人物たちをご紹介いたしましょう。
パク・グは、生まれつき魚っぽい顔…ではなくリアルに魚顔の青年。
とある新薬の治験に参加したら、副作用でこうなっちゃいました。
すぐ喉が渇いて水をがぶ飲みし、常に霧吹きで顔を潤すというシュールな笑いをもたらしますが、日に日に魚化が進行。
それでも下半身だけは人間のまま、ヒトとも魚とも呼べない存在です。
元は人間だった「パク・グ」、魚男の「パク・グ」
2つの人生を歩んだ彼の想いには、切なさも込み上げてきます。
サンウォンは、魚男パク・グのスクープを追うことになった青年。
魚男の身を案じ、取材も兼ねて同居中です。
共に過ごす時間が長くなったはずなのに、魚男の内にある想いに気付けなかったことを悔やんでいます。
魚男に寄り添い、真実を追い求めた真摯な姿が、最後に深く印象に残る人物です。
ジンは、魚男パクの元恋人。といっても一夜限りの行きずりの関係です。
ネットを荒らす常習犯でもあり、ジンの好戦的な書き込みはいつも炎上。
今回も「生きる屍」というハンドルネームで、魚男パクの存在を拡散・炎上させました。
気が強く我も強いですが、行くあても生きる手段も曖昧な魚男パク・グの心の支えにもなっていく存在でもあります。
…と、メインキャラはこの若者3人。
そのの他に、魚男パクの父親・新薬を開発したビョン博士、製薬会社相手に訴訟に挑むキム弁護士などが登場。
強烈に不気味なビジュアルの魚男ですが、ストーリーには共感してしまう部分も。
これで終わりと見せかけて、最後にはどんでん返しも待っている感動作品 となっております。
【フィッシュマンの涙】まとめ
世間をひっくり返すほどの存在となった「顔が魚」のひとりの青年。
彼はごく平凡な生活を送りたかっただけの、ごく普通の若者でした。
- 報酬目当てで新薬治験に参加し、副作用で魚化してしまった青年の物語
- それぞれの事情を抱えた若者と魚人との、ちょっと笑えて感動する回顧録
韓国は、日本以上に激しい学歴社会のお国柄です。
東大にあたるソウル大、早慶にあたる高麗大、お茶の水女子大あたりかな?という梨花女子大など、名門校が数多くあります。
コネがなければ名門大卒以外は見向きもされず、就職は絶望的。
進路につまづいたら、フリーターまっしぐらです。
今作は、そんな若者の就職難事情から端を発したフィクション作品。
ネットや報道で一変する情報のあり方、医療進歩に対する純粋さと腹黒さにまで斬り込んでいます。
90分ほどの中にギュっと凝縮された社会風刺は、なかなかの切れ味。
韓国映画【フィッシュマンの涙】は、決して死んだ魚の目ではなかった青年の悲壮と、その先にある結末に感動する作品 でした。
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