2006年12月。
東京の繁華街の一角で、切断遺体が発見されるというセンセーショナルな事件が起こりました。
最初の遺体発見からおよそ1カ月後には犯人逮捕となり、無事解決に至った「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」についてお届けします。
師走の繁華街に走った激震
引用:google マップ
師走の慌ただしさが迫る2006年12月16日午前8時すぎ。
東京都庁のある西新宿、JR中央・総武線と山手線が交錯する線路脇の植え込みに、白いゴミ袋に入ったマネキンのようなものがあるという通報がありました。
- 通行人の110番通報により、警視庁新宿署員が現場へ
- そこで目にしたのは、二重のゴミ袋に入れられた切断遺体
- 遺体には頭・両腕・両足がなく、胴体のみ
- 接断面から、ノコギリのような刃物で切られたっぽい
- さらに遺体は20代〜30代の男性、死後1日〜3日と推定
朝の通勤時間帯に発見された、男性のバラバラ死体。
警視庁捜査1課は、この日のうちに新宿署に捜査本部を設置し、死体遺棄事件として捜査を開始します。
- 警察は当初、被害者を外国人と断定
- 理由① 発見場所が歌舞伎町にも近い新宿であること
- 理由② 死体遺棄の仕方が残忍であること
- 以上2点から、暴力団関係者・中国系マフィアなどの抗争事件では?
こんな見立てで始まった警察の捜査は、被害男性を特定出来ぬまま、ちょっと難航。
なんせ顔もわからなければ歯型も取れない、指紋も調べられない胴体のみですから。
そうこうしてるうちに最初の遺体発見から12日後、渋谷で新たなバラバラ遺体が発見されます。
渋谷区内の民家に下半身が
引用:google マップ
2006年12月28日、午後3時10分すぎ。
渋谷区神山町にある古びた民家の庭先から、男性のものと思われる腰から下の切断遺体が見つかります。
- 発見したのは、この近所に住む犬の散歩中だった女性
- 犬がこの家の門前で立ち止まり、何かあるのかなと覗いたら…
- なんとうつぶせ状態に置かれた下半身が
- 女性はすぐさま近くの交番に駆け込み、この一報は捜査本部のある新宿署にも
渋谷区神山町といえば、代々木公園やNHK放送センターのすぐ近く。
脇道に入れば落ち着いたカフェなんかもあり、小洒落た戸建てが立ち並ぶ高級住宅街もあるエリアです。
そんな静かなエリアの中で、ひときわボロい落書きだらけのブロック塀に囲まれた空き家が発見現場となりました。
- 死亡推定時刻や遺体の特徴が、新宿で見つかった上半身と類似
- DNA鑑定の結果、同一人物のものと判明
警察は、被害男性を近郊で捜索願いの出された男性にも着目。
すると渋谷区在住のひとりの男性に行き当たります。
しかしその男性の身長や身体的特徴が、発見された遺体とは合致せず。
またしても捜査は難航…したかに見えたものの、年明けに事件は急展開を迎えます。
再捜査が掴んだ決定打
引用:google マップ
警察がアタリをつけたのは、2006年12月15日に妻から代々木署に捜索願いが出されていた男性。
新宿で胴体が見つかる前日の届出ということもあり、警察も一旦はこの男性が被害者なのでは?と調べた経緯があります。
- この男性は、渋谷区富ヶ谷に住む大手外資系証券会社の社員(当時30歳)
- 妻(当時32歳)によると「夫が11日に会社に出たまま帰宅しない」
- 捜索願いの記載から、男性は高身長で胸に手術痕あり
- 新宿で発見された胴体に手術痕はナシ
- さらに胴体から推測した被害者の身長は、この男性の身長より低い
…と、身体的特徴が合致しなかったため、早々にこの男性を捜査リストから除外。
ところが渋谷で下半身が発見されたことで、被害者は胴体からの推測より脚が長く高身長であることが判明します。
- この男性も脚が長く高身長。被害者の可能性が高い
- ただ、手術痕の有無という決定的な違いが
- これを踏まえて、捜査員たちは再捜査を開始
- 周辺者への聞き込みから、意外な事実が
なんとこの男性、胸に手術痕などないことが発覚。
いくつもの同様の証言から、妻の捜索願いが虚偽であることが明らかになったのです。
事件の全貌が明らかに
虚偽の捜索願いが決め手となり、妻が容疑者として浮上。
さらに調べを進めたところ、自宅マンションの防犯カメラから夫が帰宅する姿も確認されました。
「夫が11日に会社に出たまま帰宅しない」という妻の訴えも、初めから嘘であったことが裏付けられたのです。
- 任意同行された妻はあっさり容疑を認め、次々と自供
- 寝ていた夫の頭をワインボトルで殴打し、殺害
- 量販店で買ったノコギリで頭や胴体を切断
- 胴体はキャリーケースに入れ、タクシーで新宿に行き捨てた
- 下半身はキャリーケースに入れて台車で運び、渋谷の民家の庭にポイ
- 頭はバッグに入れて電車で町田に行き、公園にスコップで穴掘って埋めた
- 両腕は一般ゴミに混ぜて普通に捨てた
この自供から警察は、被害男性を渋谷区富ヶ谷在住のサラリーマン・三橋祐輔さんと断定。
最初の遺体発見から約1か月経った2007年1月10日、その妻・三橋歌織(旧姓・川口歌織)を死体遺棄容疑で逮捕します。
こうして事件は一気に解決。
遺体発見現場が新宿・渋谷だったこと。
殺された祐輔さんが高収入エリートサラリーマンだったことから、「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」と呼ばれるように。
また、被害者・被疑者ともに渋谷区在住のセレブだったことから、「セレブ妻エリート夫殺人事件」とも呼ばれています。
事件の裏側と歌織容疑者のその後
引用:公務員研究所
都会の繁華街を震撼させた「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」
犯人逮捕で一件落着と相成りますが、その後は裁判で事件の経緯・罪状認否が行われました。
初公判は、2007年12月20日・東京地方裁判所。
まずは2人の馴れ初めや夫婦関係にまで遡り、歌織被告が犯行に至るまでの裏側が明らかになっていきます。
- 夫婦は2002年11月ごろ知り合い、翌12月から同棲を開始
- 翌年2003年。妻の妊娠を期に3月に結婚
- ただこのとき夫の収入は、法律事務所のアルバイトのみ
- 経済力のなさから家庭を築く不安を抱え、妻は3月上旬に堕胎
- その後夫婦仲が悪化し、妻は夫からDVを受けるように
- 妻は心的外傷後ストレス障害を発症し、保護施設に避難したことも
…と、出会いから妊娠・結婚、家庭不和まで。
夫婦は半年ほどの短期間で、幸せの絶頂と破綻を迎えています。
この間さらに互いの不倫も発覚し、もはや夫婦としての修復は不可能。
そうして妻は、こんな動機の元で夫殺害の犯行に及んだのです。
- 動機その① 生き方が合わず、自分を否定されたから
- 動機その② たびたび夫から暴力を受け、殺意を抱いたから
- …ということで、2006年12月12日早朝に殺害を決行
- 就寝中の夫を中身の入ったワインボトルで撲殺し、自宅で解体
- その後自宅をリフォームするなどの隠蔽工作も
さらに妻は嘘の証言や虚偽の捜索願いを出し、捜査を撹乱。
犯行はかなり計画的、用意周到に行われたことが伺えます。
ところがいざ裁判では、犯行当時の責任能力を否定。
心身喪失状態だったと主張しやがったのです。
精神鑑定と裁判の行く末
引用:裁判所 公式サイト
逮捕当時は容疑をあっさり認め、殺害した経緯も饒舌に証言した妻。
彼女は法廷で被告となった途端、幻覚や幻聴の症状を訴え始めます。
「遺体を捨てたとき、夫の声が聞こえた」
「警察署で、鏡に映る夫を見た」
これにより裁判は、犯行時の妻の精神状態、責任能力の有無に焦点が絞られ、精神鑑定に注目が集まることに。
- 検察・被告人の鑑定証人、共に犯行時は心神喪失状態と判断
- 双方が同じ鑑定結果になるのは異例の事態
- 検察側・弁護側は、同時に鑑定医師と質疑応答
- 鑑定結果を重視する判例が多い中、裁判所の判断これいかに
さてこの裁判、昨今よく耳にする精神鑑定が判決を左右する流れとなっていきます。
- 刑法第39条
1. 心神喪失者の行為は、罰しない
2. 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する
これに基づく争いへと発展。
弁護側は鑑定結果から、心身喪失状態にあり責任能力はないとして、無罪を主張します。
その一方で検察側は、鑑定結果を鑑みても責任能力に問題ないとし、懲役20年を求刑。
さらに検察側は精神鑑定の再鑑定を請求するも、裁判所はこの再鑑定請求を却下しています。
歌織被告に下された判決
夫を殺害し、バラバラにし、その辺に雑に捨てた歌織被告。
精神鑑定結果が反映され、無罪放免に…というと、そうは問屋がおろしません。
- 東京地裁・河本雅也裁判長は、歌織被告に懲役15年の実刑判決を下した
- 被告の心身喪失は「責任能力に影響を与えるものではない」と判断
- その理由はまず、動機が明瞭で計画性があること
- また、犯行後に死体遺棄や隠蔽工作を行なっていること
- 精神状態は犯行の手助けにしかなっていないこと
以上により被告の完全責任能力を認めるとし、2008年4月28日、東京地裁の1審では有罪判決に。
ただ、歌織被告の弁護人はこの判決を不服とし、同2008年5月9日に控訴しています。
控訴とは、1審判決に不服があるとして、裁判内容・判決内容を見直すものです。
- 控訴審公判では3回目の精神鑑定が行われた
- 被告の完全責任能力を認める鑑定結果となり、証拠として採用
- その後2010年5月、東京高等裁判所で控訴審公判最終弁論へ
弁護側は、変わらず心神喪失による無罪を主張。
検察側は精神鑑定の信用性の高さを主張し、控訴棄却を主張。
歌織被告の裁判は、控訴審判決公判・2審の判決がキモとなっていきます。
- 2010年6月22日。出田孝一裁判長は1審判決を支持
- 被告側の控訴を棄却。弁護側は上訴権を放棄
- これにより、東京地方裁判所判決に基づいた懲役刑が確定
こうして2007年から始まった裁判は、2010年7月にエンディングを迎えます。
控訴審でも1審判決は妥当であるとして、懲役は15年。
この判決のもと、三橋歌織は殺人・死体遺棄の罪で懲役刑となり、いま現在2021年も服役中です。
通常、刑務所に収監されるのは、裁判で懲役刑が確定してから。
一審で確定した場合は即日、控訴審に持ち越しで確定した場合は手続きの関係で数日あとに収監となります。
今回の三橋歌織の場合、収監は控訴審判決確定後の2010年7月以降。
…ですが、一審判決と控訴審が同じであるため、刑期には勾留期間が含まれます。
つまり2007年で懲役刑が確定しているので、そこから15年、2023年頃に出所の予定です。
こうして「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」は、2006年12月の殺害日から、4年以上の月日を経て完全解決に至ったことになります。
まとめ
夫を殺し、ひとりで遺体を切断し、タクシーや電車を利用して遺棄した妻。
最初に遺体が発見された西新宿は異様な光景に包まれ、当時は大きなニュースになりました。
現場周辺には規制線が張られ、植え込みを捜索する鑑識課員がワラワラと。
「新宿で殺人事件があったらしい…」
そんな噂は瞬く間に広がり、その猟奇的な事件性にプルプルしたのを覚えています。
日本は世界に比べると、非常に治安の良い国です。
それでも事件が起こらないわけではなく、犯罪は後を断ちません。
新たな事件が起これば過去の事件は忘れ去られ、猟奇事件のその後を知る機会も少ないかと思います。
人が人を切り刻むおぞましさ。
あぁ、こんな事件があったんだ…と、その裏側を知るきっかけになれば恐悦至極にございます。
「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」をモチーフにした、映画についてもお届けしております。
あわせてどうぞ↓
コメント
未決勾留期間を刑期に参入するから出所は2023年。
あsdf様
コメントありがとうございます
未決勾留期間について教えていただき、大変助かりました
正しい情報に修正させていただきます
ご指摘ありがとうございました