世界には、いろんな国や地域に伝統衣装があります。その国の文化や歴史に触れ、時代背景や人間模様さえ浮き彫りにする重要な史料のひとつです。
お隣の国・韓国の絹織物、韓服の中でも最も格式高い王族の衣装。
そこに込められた美しさと醜さを描いた韓国映画【尚衣院-サンイウォン-】の世界へとご案内いたします。
この記事でわかること
- あらすじ概要・出演キャスト
- 予告動画・動画配信サービス・DVD情報
【尚衣院-サンイウォン-】伝統と格式の朝鮮王朝
お♪チマチョゴリ。一回着てみたかったんだよねー。
たける君は男だから、着るならパジチョゴリだな。
- チョゴリとは、男性用も女性用も共に上着にあたるものを指す
- チマは巻きスカートにあたるものを指すので、チマ+チョゴリは女性用
- パジはズボンにあたるものを指すので、パジ+チョゴリは男性用
…と言っても、韓国では民族衣装を総じて韓服(ハンボク)と呼ぶのが普通です。チマチョゴリ・パジチョゴリは主に北朝鮮での呼び方だそう。
へー。ちょっと呼び方違うんだ。
私も初めて知った。チマチョゴリでも通じるが、韓国では違和感あるらしい。
子供のころ何度か韓国を訪れたことがあるんですが、普通に「チマチョゴリー。パジチョゴリー。」って言っちゃってました。
観光客目当ての土産物屋さんだったし、お店の女性を「アジュマー(おばちゃん)」じゃなくて「オンニー(お姉さん)」って呼んだから、細かいことはスルーしてもらえたのかもしれません(笑)
- 南北に分かれてから「韓国の服=韓服」と呼ばれるようになった
- 「日本の着物=和服」という概念と同じ
- 韓服は、今でも冠婚葬祭などの祭事で着られることが多々ある
そんな韓服の中でも、日本の十二単衣のように王族のみが着る衣装が。
そしてかつての朝鮮王朝の王宮内には、王族の衣装を特別に縫製する部署がありました。
王と王妃、衣装を作るベテラン仕立師と新進気鋭の仕立師。それぞれが時代の風潮に飲み込まれ、翻弄されていく様を描いた韓国映画が【尚衣院-サンイウォン-】 です。
実際に、いつの李氏朝鮮時代に尚衣院が作られたのかという雑学はこちら↓
映画【尚衣院 -サンイウォン-】基本情報
尚衣院 -サンイウォン- | 2014年 韓国映画 |
ジャンル | 歴史・ヒューマンドラマ |
監督 | イ・ウォンスク |
脚本 | キム・スジン |
上映時間 | 127分 |
出演 | ハン・ソッキュ、コ・ス、パク・シネ他 |
動画配信サービス | Aamazonプライムビデオ(prime対象) |
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【尚衣院 -サンイウォン-】時代は朝鮮半島最後の統一王朝期
物語は、数百年前の王妃のお召し物が発見された、という現代の韓国から始まります。
おそらく李氏朝鮮時代のものであろうと推測され、これまでとは大きく異なる革新的なそのデザインは、貴重な歴史的史料となる世紀の大発見!…という筋書きです。
李氏朝鮮って、南北に分断されるちょっと前まで続いてた王朝だっけ?
あぁ。1392年から1897年まで続いた朝鮮民族最後の統一王朝だな。
伝統や格式を100年経っても変わらぬものとして受け継ぐため。
李氏朝鮮時代には王や王妃の衣装を手掛ける専属部署が新たに設置されました。
それが宮殿の宝箱とも称されていた「尚衣院(サンイウォン)」です。
- 王宮内衣装部「尚衣院」の発足は1392年
- 絹糸を紡ぐ者・はたを織る者・染色する者・裁縫する者・刺繍をほどこす者など数多くが在籍
- 当時の文化では、衣服は伝統と格式、品格と威厳を表すためのもの
- デザインや着こなし、布の種類に至るまで、身分によって厳しい決まりがあった
- 特に高貴な王族衣装は、王や王妃が変わっても普遍的なデザインを用いる慣わしだった
- 今回新たに発見された王妃の衣装は、斬新かつ洗練された異色の芸術作
着る服さえも厳しい掟があったこの時代。特に伝統と格式を重んじる高貴な王族の伝統衣装に革新的なデザインをもたらしたのは誰なのか。
王宮内専属スタイリストが集う部署、尚衣院を取りまとめるチョ・ドルソク。
彼がこの世紀の大発見となった王妃の衣装を製作した人物であるとして、映画【尚衣院-サンイウォン-】の舞台は一気に李氏朝鮮時代へと遡ります。
苦節30年のベテラン仕立師
李氏朝鮮時代は実に500年以上も続いたロングラン王朝です。
日本の歴史と重ねて見ると、いかにひとつの王朝が長く続いていたかが分かるかと。
凄いねー。この間いろんな王が世襲交代していったんでしょ?
総勢26名の国王が擁立されたな。
このうち3代の王に仕え、30年間「尚衣院(サンイウォン)」に在籍。
そのトップである御針匠(オチムジャン)という役職に就いていた有能な仕立師がチョ・ドルソクです。
- ドルソクは平民出身
- 平民は卑しい身分とされ、両班(リャンバン)という貴族階級が台頭していた
- 民の身分は「両班か両班以外か」のほぼ二択
- どんなに有能でも平民は両班に見下される
朝鮮半島は李氏朝鮮時代以前から激しい格差社会が蔓延しており、有能な平民より無能な両班がデカい顔して闊歩する風潮がありました。
でもドルソクは王宮御用達の仕立師のトップだよね?それでも見下される身分なの?
さすがにおおっぴらに見下されることはないが、所詮は平民、しかも男が裁縫かよとは思われてたな。
裁縫は女性の嗜みか、下人の仕事。両班に限らず平民でも、男性が裁縫を仕事にすることはごく稀です。
ドルソクがなぜそんな裁縫の仕事に就いたのか。
それは少年時代、ふとしたことから尚衣院のお偉いさんの目に留まったことがキッカケでした。
- 裁縫が得意だったわけでも、好きだったわけでもない
- 尚衣院のお偉いさんに「裁縫に向いた良い手をしておる」と褒められ、弟子になった
- 裁縫とは布と布、二つの世をひとつに結ぶ行いであることを学んだ
- 針を刺すときには魂を込め、針を抜くときには真心を込めるという信念と誇りがある
単調な作業の中にも真理がある裁縫をコツコツ極め、ついにはドルソクは王族の衣装を扱う「尚衣院(サンイウォン)」のトップ・御針匠(オチムジャン)にまで出世したんです。
さらには3代もの王に仕えて見事な衣装を作り続けた功績が認められ、6ヶ月後には平民から両班に昇格することが確定。
え。身分の昇格なんてあるんだ。
有能な人材登用しないと、さすがに長く王朝も続かんだろ。かといって平民のままではどうしても差別やなんだがあるからな。
平民が両班になるのは大出世。才能が認められ、王命を賜ることが条件なので、この上ない栄誉でもあります。
苦節30年、努力の男チョ・ドルソク。あと半年で夢にまで見た上流階級・両班の仲間入り。
それはもう浮かれ気分でコッソリ両班らしく振舞う練習をするほど楽しみにしておりました。
ひねくれ王と不遇の王妃
ドルソクは3代に渡って王の衣装作りに携わりましたが、実は先王はほんの数年で急逝してしまったお方です。
時の王が亡くなった際は国を挙げて喪に服すことが慣例で、国喪が明けるまでは王も両班も平民も皆一様に生成りの麻の白装束を纏います。
国喪の期間はおよそ3年。先王の弟君が新王に奉りあげられ、これがまた…屈折しまくったひねくれ者。
- 新王は先々王の次男で、先王の弟君
- 身分格差は民だけでなく、王の子息の間にもある
- 第1後継者は「世子(セジャ)」と呼ばれ、権力を持つ存在
- 世子以外の王子は蔑ろにされがちだった
急逝した先王が世子(セジャ)って呼ばれる兄?
…そう。次期国王である兄の影で卑屈に育ったのが新王だ。
権力があるのは誰であるのか。兄弟間でもあからさまな差別があり、さらに新王は出自にも少し問題がありました。
- 先代である兄王は、正室の嫡男
- 新王は父王と宮廷女官の間に生まれた子、いわゆる卑しい身分の者の血も引いている
朝鮮半島は、今でも血の繋がりを重んじる気質です。
半分でも卑しい血が流れることは、周囲だけでなく本人さえも嫌悪する劣等感。
それだけにとどまらず、新王の正室・王妃はもともとは「世子嬪(セジャビン)」と呼ばれる兄嫁候補でした。
あらやだ♪略奪愛!?
まぁ一目惚れしたのは事実だが、あえて兄が「お下がり」をくれてやったって感じだな。
兄王が急逝したから王位を継いだものの、国も嫁も元はと言えば世子(セジャ)である兄のために用意されたもの。
新王はこんないろいろとめんどくさいひねくれ思考なので、一度は惚れた王妃なのに愛情より劣等感が勝ってしまいます。
- 王妃は、兄王の嫁として王妃になる予定が弟君の嫁に成り下がった娘と蔑まれた
- 結果的に王妃になりはしたものの、周囲からの尊敬も新王の寵愛も受けることなく過ごす日々
- それでも妻としての役割を果たそうと健気に寄り添う不遇な王妃
王も王妃もそれぞれ胸に劣等感を抱いていて、少し似た者同士なこの二人。
宮廷高官たちの腹黒い権力争いに巻き込まれることもしばしばです。
でも国喪中はさすがに謀はご法度だよね。
それだけじゃなく、婚姻や懐妊、祭事もご法度だな。
しかしいよいよ喪が明ければ、またハイエナ高官どものターゲットにロックオン。
そんなお二人のために立派な衣装を、なんの企みもなく純粋に丁寧に製作してきたのが御針匠ドルソクです。
- 御針匠ドルソクは、喪明けに王が着る執務服・龍袍(ヨンポ)を奉納
- 龍袍(ヨンポ)は、ハイエナ高官どもに最高権力者の権威を示す重要な衣装
- 新王は、御針匠ドルソクの仕立てた龍袍(ヨンポ)に大満足
- ついでに宮廷高官や王妃の衣装も用意するよう王命が下る
こうして尚衣院・御針匠のドルソクは、自虐新王・健気な王妃・ハイエナ高官どもの宮中衣装をたんまりと、心を込めて作ることになりました。
【尚衣院-サンイウォン-】時代が招いた人心の破滅
国喪が明けて衣装をお召し替えになるのは、王や宮廷内の者どもだけに限りません。
市井の両班も平民も、こぞって白装束からそれぞれの身分に合った衣服を着ることが許されます。
特に女性の韓服ってカラフルで華やかで綺麗だよねー。
両班の殿方の服もなかなか渋い色合いと光沢が綺麗だが、いかんせん着にくそうだな。
- 着やすさ・おしゃれさ・機能性はほぼない
- 男性(特に両班)は袖が無駄に長いのが特徴
- 女性は肌をなるべく見せない形
衣服は身分を表す手段なので、めんどくさいことにいちいち丈の長さだったり袖の長さまで慣例で決まっていたんです。
ただし妓生(キーセン)と呼ばれる美人処のおねーさま方だけは別で、ちょっと肌見せ・見せ下着という着こなしをしておりました。
妓生(キーセン)のおねーさま方の衣装がまた…お色気ムンムンだねー。
…お色気ムンムンて(笑)いまどきそんな表現するのたける君くらいだろ。
妓生(キーセン)は、ただのお色気要員…ではなく、舞踊や琴の演奏、話術に長けた知識を備え、酒席を盛り上げるのがお仕事。
お相手するのは両班や高官が多く、華やかでありながらも粗相の無い振る舞いをしなければなりません。
着やすさ・おしゃれさ・機能性のない服が主流のこの時代、全てを兼ね備え、妓生(キーセン)のおねーさま方に大人気の服飾仕立師がおりました。
綺麗なものや綺麗な女性をこよなく愛するちょっと軟派な青年イ・ゴンジン。
衣服は身分を表すためだけでなく、着心地やデザインにこだわって楽しむものだという持論を持った、新進気鋭の仕立師です。
切磋琢磨する二人
引用amazon
街で人気の仕立師ゴンジン。
その人気は妓生(キーセン)のおねーさま方だけに留まらず、両班の間でも評判です。そんな評判は宮廷内にも広まります。
- 王妃は、自分の喪明けの衣装も作らせてくれた王へのお礼に、祭事で着る衣装の修繕をすることに
- お付きの女官が誤って王衣を焦がしてしまった
- 御針匠ドルソクは多忙な上に、すぐにお直しするのは難しい
困り果てた王妃に、ある宮仕えの両班がゴンジンの腕の良さをアピール。
御針匠ドルソクでも難しい焦げ王衣のリメイクをゴンジンに依頼することになりました。
直せるの?
尚衣院での衣装作りの掟ガン無視だがな。たったひと晩で、ドルソクよりも着心地よい王衣になるよう修繕した。
御針匠ドルソクにしてみれば、面目丸つぶれ…かと思いきや、仕立ての良さ・縫製スピードには目を見張るものがありました。
何より男が裁縫って…というご時世に、自分と同じく裁縫を生業にするゴンジンに対し、友情にも似た感情を抱きます。
- ゴンジンはかなり人懐っこい性格で、物怖じしない
- 見目麗しいものが大好きなゴンジンは、王妃に淡い想いも抱き始める
- ゴンジンと王妃は書の話で意気投合し、たびたび王妃の衣装も作るように
- ポッと出の仕立師だが、腕は確かで御針匠ドルソクを慕う面もある
- 同じ裁縫の世界に生きる男同士、御針匠ドルソクとゴンジンは夢を語り合うことも
- ゴンジンの斬新で革新的な発想のデザインに、御針匠ドルソクは敬意すら覚えた
王も王妃も、着心地がよく見栄えも良いゴンジンの腕を重宝するようになりますが、それでも御針匠ドルソクは自分に出来る最高の衣装に誇りと自信を持っていました。
しかしハイエナ高官どもの権力争いにも巻き込まれ、師弟のように切磋琢磨していたゴンジンの才能を妬み、陥れることになってしまいます。
渦巻くのは争い・野心・執念・誇示
御針匠ドルソクと人気うなぎ昇りの仕立師ゴンジン。二人の師弟のような関係をぶち壊したのは、時代に渦巻く権力欲でした。
王は自虐的な卑屈者ですが、国政面では賢王です。
しかしひねくれ加減が半端ないので、正室である王妃に触れることすらせず、未だお世継ぎが誕生していません。
王位は世襲制であるため、国の未来を安ずるという名目で、男児のお世継ぎどころか子を身籠もらない王妃を廃位する動きが出始めます。
お世継ぎ生まれないとどうなるの。
側室を迎えて子を授かるようにしてる。王妃は身分が格下げされて、お世継ぎの男児を身籠った側室が王妃になるな。
- 自分の娘が王妃になれば、その一族には多大な権力が与えられる
- ちょうどお年頃で見目麗しい、軍務を仕切る兵曹判長(ビョンジョバンソ)の娘ソイがいた
- 王の目に触れさせ、側室の一人に迎えられることに
こんな欲にまみれた高官どもの野心に加え、このときの李氏朝鮮は中国・清の支配下に置かれていたという時代背景。
王や王妃の存在が清に認められて初めていち国家として認められるので、王妃の立場はまた一段と重要なポジションでした。
王妃もそんな権力欲に…。
…まみれてはいない。どちらかというと新たに側室に迎えられたソイが野心家だ。
- まもなく清から使節団が
- 歓迎の宴が催され、王の隣の席を射止める必要があった
- 健気な王妃は劣等感もあって、宴を辞退
- 野心溢れる側室ソイは、「妾がまもなく王妃ゆえ」と王位専属の尚衣院に衣装を作らせた
- ゴンジンは、王妃に相応しい衣装を作らせて欲しい、と王妃に進言
型にはまった伝統技法の御針匠ドルソク、誰もが目を奪われる斬新なデザインがウリのゴンジン。
こうして、王衣しか作らぬ者が王妃ではなく側室の、巷の衣服が専門の者が王妃の衣装を作ることになり、努力肌と天才肌のデザイナー対決 が始まります。
このことが引き金となり、これまで誇りと自信を持ち続けた御針匠ドルソクは大きく自尊心を傷つけられることに。
羨望すら抱いた感情は嫉妬に変わり、王もまた王妃とゴンジンの関係に疑いの目を向け始め…というのが大まかなあらすじになります。
李氏朝鮮時代の王室歴史絵巻【尚衣院-サンイウォン-】
美しい伝統衣装の裏側にあるのは醜い人間模様。
時代や風習、陰謀が人の心を蝕み、誠実さやひたむきささえも醜い執念に侵食されてしまいます。
時代の流れに翻弄される人間の脆さと、美しい衣装との対比が絶妙な予告動画はこちら↓
【尚衣院-サンイウォン-】羨望と嫉妬が乱舞する登場人物たち
今作【尚衣院-サンイウォン-】は歴史大作になっていますが、史実ではなくフィクションです。
現代に蘇った美しい王妃の衣装から紐解かれる醜悪を、高い演技力で懇々と演じた登場人物をご紹介いたしましょう。
チョ・ドルソクは本当は読み書きや学問に興味があった王宮専属の仕立師。
幼少時に道端で文字の練習を両班に咎められ、奴隷に売られたところを尚衣院のお偉いさんに救われた経緯があります。
学問を会得できるのは主に両班だったため、まもなく平民から昇格しますが未だ読み書きは出来ません。
ただひたすら己に出来ることに取り組み続けたチョ・ドルソクの誠実な人柄や、次第に湧き上がる黒い感情の変化を、ハン・ソッキュが魂震える見事な演技で演じています。
イ・ゴンジンは、厳格な身分制度や慣例に捉われない自由人。服飾に関する知識が豊富で、平民でありながらも孫子を読むほど学問にも長けています。
型紙を用いて型通りに服を作るのが当たり前の時代に、藁で作ったトルソーやデザイン画を用いて製作するという革新派。
独自の発想と理念で服を作るのが大好きなイ・ゴンジンを、ちょっとディーン・フジオカ氏似の色男コ・スが演じていて、目の保養になります。
王妃は「中殿媽媽(チュンジョンママ)」とも呼ばれる正室。宮廷内で正室の居室が「中殿(チュンジョン)」であることから来ています。
「媽媽(ママ)」は中国語でお母さんの意味があり、王妃はのちに国を背負うお世継ぎの母、国母(クンモ)という立場にもなるので、合わせて「中殿媽媽(チュンジョンママ)」というわけです。
本来ならば「中殿媽媽(チュンジョンママ)」は宮廷官吏や女官が畏怖するほど尊い身分ですが、諸々の諸事情から案外陰口を叩かれてます。
されど王妃として妻として凛と立ち振る舞わねばならず、ときおり見せる弱さや賢さのある王妃をパク・シネが演じています。
王はひたすら「陛下(ぺーハー)」という呼称で呼ばれる国王。李氏朝鮮時代が舞台ですが、具体的にどの歴代陛下がモデルになっているのかは明確にはなっていません。
ただ、世子(セジャ)以外の王子の立場は時代背景が反映されており、こんな境遇なら確かにひねくれるよね、という人物像になっています。
人一倍強い劣等感を抱き、いかにクセがある王であるかを前面に押し出し、目で表現したユ・ヨンソクの演技力は見事です。
…と、この他にも高飛車で高慢な側室ソイや、綺麗どころの妓生(キーセン)、老害とも言える宮廷高官なども登場します。
複雑に入り乱れる欲に堕ちていく人間劇ですが、イケてない両班や見目麗しくない女官がゴンジンの衣装に一喜一憂するコメディなシーンも。
息を飲むとはまさにこのことか、というほど素晴らしい王妃の衣装も見どころで、美しさと醜さに心が締め付けられます。
まとめ
染め上げた絹に施された金糸や銀糸、色とりどりの刺繍が織りなす美しい王族の衣装に携わる尚衣院。ハングルでは「尚衣院=상의원」と表記します。
- 時代は李氏朝鮮。舞台は王の衣服を手掛ける宮廷部署・尚衣院
- 努力肌の王宮仕立師と、天才肌の革命的仕立師の間に生まれた友情と嫉み
- 文化や風習が植え付けた王と王妃の劣等感
- いつの世も野心と権力には醜い人間模様がある
時代や立場、境遇が全てを狂わすことになり、本音を明かすことさえ許されない世で生じた誤解と軋裂。
夢や野心は向上心のひとつでもあると思います。
しかしそこにささやかな悪意が注がれてしまえば、自尊心は劣等感に、優越感は後悔という名の感情に変わってしまう気がしました。
映画【尚衣院-サンイウォン-】は美しい衣装を引き合いに、いつの時代もどんな国でも生じる嫉妬や憎悪、醜さの中にある切なさを描いた物悲しい作品 でした。
他にも韓国映画の歴史絵巻には、壮大かつドロドロした面白さが。
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