あなたにとって、この世で一番怖いものは何ですか。
超常現象の怨霊?戦争や銃などの暴力?それとも地震・雷・火事・親父?(笑)
人によって恐怖を感じ、屈する対象はまちまちですが、この世で一番怖いのは人間の本性かもしれません。
なぜ自分がこんな目に…という不条理や不公平の中に見え隠れする人間の醜さを描いた2010年公開のホラー映画【マザーズデイ】の世界へとご案内いたします。
この記事でわかること
- あらすじ概要・出演キャスト
- 予告動画・動画配信サービス・DVD情報
【マザーズデイ】新居で起こった偶然の恐怖
おー。広々とした芝生の庭付き2階建。アメリカの一軒家って良いよね。
ハリケーンなんかもちょくちょく起こるから、地下にはシェルターも完備してるよ。
私は生まれてこのかたマンションにしか住んだことがないので、こんなお家は羨ましい限りです。
実際は芝生の手入れが大変らしいですけどね。それでも一軒家のマイホームなんて購入したら、なんだか明るい未来が開けそうな気がします。
- 今作は映画《ソウ》シリーズを手がけたダーレン・リン・バウズマン監督作品
- …ということで、スプラッターな展開アリの心理サスペンス
- 実は《マザーズ・デイ》という同名タイトルの映画がある
- …が、そっちはジェニファー・アニストンやジュリア・ロバーツ出演のヒューマンドラマ
- レベッカ・デモーネイの怖い演技が見どころ
レベッカ・デモーネイさんといえば、映画《揺りかごを揺らす手》の演技が絶賛された女優さん。
いくつになってもお美しく、静かな中に潜むジワる怖さを演じさせたらピカイチです。
そんな彼女が、夢のマイホームを手に入れた夫婦をキャーとかヒェェェ…というそら恐ろしい出来事に巻きこんでいくホラー映画が【マザーズデイ】 です。
映画【マザーズデイ】基本情報
マザーズデイ | 2010年 アメリカ映画 |
ジャンル | サスペンス・ホラー |
監督 | ダーレン・リン・バウズマン |
脚本 | スコット・ミラム |
上映時間 | 112分 |
出演 | レベッカ・デモーネイ、ジェイミー・キング他 |
動画配信サービス | 現在、動画配信サービスでの取り扱いがありません。 ※Yahoo! 無料動画GYAOにて配信される場合アリ |
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【マザーズデイ】新たなお家、新たな人生
物語の舞台は、2ヶ月前に越して来たソーハッピー夫婦の新居。
常にIt’s so happy♪なポジティブ夫婦、というわけではなく苗字が「ソーハッピー」です。
でも名前の通り、新居に友人招いてどんちゃん騒ぎしてるよね。
…まぁ確かに旦那はお気楽主義っぽいな。
この家の家主はダニエル・ソーハッピー、妻はベス(エリザベス)・ソーハッピー。
いろいろあって都会を離れ、人生を仕切り直すために郊外の中古の一軒家を購入しました。
- 思いのほか破格値で立派な一軒家が売りに出されてたので、さっさと購入
- 前家主の荷が少し残っていたので物置に押し込み、地下室はラウンジに改造
- 引っ越しも落ち着いたので、3組の友人カップルとおひとりさまの女史、合わせて7人を招いてパーティーの真っ最中
あれ?どんちゃん騒ぎしてるのってリビングじゃないんだ。
ちょうどこの日はハリケーンが来るって予報も出ててね。ラウンジに改築した地下室が安心安全なパーティー会場だ。
よくアメリカ映画に登場する一軒家の地下室って、物置きだったり悪さした子供を閉じ込めるお仕置き部屋だったりするんですけどね。
ソーハッピー家の地下室は、バーカウンターにビリヤード台、ソファーに薄型TVも完備というこだわりよう。
家屋内からの出入りだけでなくお庭に直通の出口もある、大人の秘密基地のような空間です。
大音量で音楽をかけても、お酒が入ってどんちゃん騒ぎしても、地下室なのでご近所迷惑にもなりません。
しかし楽しいひととき、新たな人生の幕開けとなるはずが、幕を開けたのは恐ろしい惨劇でした。
ちょっとピンチの3兄弟
新居に友人招いてキャッキャわいわい。
パーティーが盛り上がっている9名とは裏腹に、街では爆走するセダンの車内でギャーギャー騒ぎ、ママ、ママを連呼する3人組がおりました。
いい大人がママ連呼って…。それぞれ30代・20代・10代くらいの年代かな。
あぁ、コイツら兄弟だ。
一番年下の10代と思しき弟くんは、腹から血を流して大騒ぎ。
銃社会のアメリカだから悲惨で物騒な目に遭ったのかと思いきや、この事態は身から出た錆です。
- 長男はアイク、次男はアドリー、三男はジョニーというあまり似ていない男兄弟
- 兄弟仲良く手に手を取って、職業は銀行強盗
- この日はもう一人仲間を交えて銀行を襲撃
- 強盗中にもう一人がミスを犯し、末弟が狙撃された
警官だか警備員だかの反撃で腹を撃たれた血まみれの弟くんを乗せ、とりあえず逃走する3兄弟。
ミスを犯したもう一人の強盗仲間は…他人なので知ったこっちゃありません。
とにかく逃げる。撃たれた弟をなんとかしないと…と車を爆走させますが、道中には警察の検問が。
さすが警察、仕事が早い!
…いや、あれはハリケーンへの注意を促すための検問だ。
日本でも、大型台風の予報が出たら警察官の方々が危険地域を巡回して、避難を呼びかけてくれることがありますよね。
アメリカもまた然り。
この先はハリケーンが通過するコースだからと注意喚起のために検問していたんです。
- 凶悪犯捜索の検問ではないので、警察車両を見て引き返しても怪しまれることはない
- かといって強盗犯なので末弟を病院に連れてくわけにもいかない
- 助けを求めて実家のママに電話するも繋がらない
- 3兄弟はひとまず実家に逃げることに
逃走経路はハリケーン&検問で行く手を塞がれた3兄弟。
急遽進路変更し、彼らが向かったその先は…ソーハッピー夫妻の新居でした。
招かざる客
地下室では相変わらず音楽ガンガン、どんちゃん騒ぎでキャッキャわいわいしていたダニエル&ベス&友人の面々。
TVのニュースも近くで起こった銀行強盗事件より、まもなく上陸するハリケーンの情報ばかりです。
そんな中、1階の玄関で物音がすることに不安を覚えた妻のベス。
当然ハリケーン接近中だし、戸締まり用心・火の用心していたはず。
ベス「玄関閉めたわよね」
ダニエル「開けっ放しだよーん。もう一人来るかもって言ってたから。ご到着かな」
お気楽極楽な旦那さまだねー。
…おかげで招かざる客まで来ちまった。
ホロ酔い気分で地下室から玄関に向かったダニエルが目にしたのは…
血まみれの若者を含めた3人の男ども。
ダニエル「なんだ、君たちは!?俺の家で何してる!」
3人組「お前こそ誰だ!ここはママの家だぞ!」
ダニエル&3人組「???………ッ!?」
そう、この家は少し前まで銀行強盗3兄弟の実家だったんです。
実は競売にかけられて売りに出され、安さに食いついたダニエル&ベスの夫婦が2ヶ月前に購入。
そんなこととはつゆ知らず、玄関開いてたしママを頼って実家に帰って来ただけだったのが強盗3兄弟でした。
もうママは住んでなかったんだ。こりゃまた失礼致しましたっ!
…で済むはずもなく、3兄弟の真ん中アドリーが銃で威嚇し始めちゃったんだよね。
血の気の多い次男坊が家主ダニエルに銃を突きつけ、そんな状況を妻のベスも目撃してしまいます。
- ダニエル&ベスは、他に家には誰もいないと嘘をつく
- 突きつけられた銃に恐れて、地下室に友人がいることをバラしてしまう
- ただ、友人の中には医者がいる。弟を助けられるから、と命乞いもする
出来れば無駄な騒ぎを起こしたくなかった長兄アイク。
弟アドリーは暴走するわ末弟ジョニーは瀕死だわで、どうするべきかパニックです。
人質もパニックだけど、強盗3兄弟もパニックなんだねー。
とりあえずママと常に一緒にいる妹から連絡来たから、ママに指示を仰ごうってことになった。
こうしてお気楽極楽旦那ダニエルが戸締まりしなかったこと、この新居の前住人が犯罪者だったという偶然が重なり、友人たちは巻き添え食らって監禁されることになりました。
【マザーズデイ】追い詰める者と追い詰められる者
撃たれた末弟ジョニーはママに会いたいと泣き叫び、オラオラな次男坊アドリーはママに叱られるとビビり、この状況を丸くおさめられない長兄アイクはママが来るのを待ち望み。
…どんだけコイツらマザコンなんだ。
きっとドスコイなボスママが登場するに違いない…と思ったら、現れたのはなんともお上品で物腰の柔らかい貞淑な女性。
ママ「あらあら、そんな床に跪かないでソファーに座ってお楽になさって。まぁ、あなた顔に怪我してしまったのね。息子のせい?ごめんなさいね」
お♪こんなお上品なママに叱られ、悪さばかりする3兄弟はご退散?
…息子たちに強盗やらせてたのはこのママだ。
おぅ…毒親か。というと単なる極悪人ではないところが今作【マザーズデイ】の最大の見どころ。
- 女の子には優しくすること。殴るなんてもってのほか
- 他人は威嚇して服従させるのではなく、焦らして喰いついてきたところを丸め込むもの
- 我が家だと思ったら他人がわんさか居たから、息子たちも自衛のために威嚇した
- すでに我が家ではなく人の手に渡っているんだから、自分たちが出て行くのが当たり前
なんだ。息子に強盗やらせてる割には全然まともなママじゃない。
…確かに言ってることは正論が多いんだが、やってることは鬼畜だぞ。
人間の本性とエゴ
ママは本当に物腰柔らか。まるで貴婦人です。
撃たれた末っ子の治療にあたってくれた人質の一人、医者のジョージには丁寧にお礼を述べ、次男アドリーがちょっと暴力振るっちゃった相手にはお詫びしたり。
家主のダニエルやベスにも、ここを離れるためには少々時間が必要だからもう少し居させて欲しい、と願い出るほど。
あんまり鬼畜に見えないんだけど。
…ここからがママの本領発揮だ。
- まず出て行くためにはお金が必要
- 息子たちが強盗をしくじったせいでお金はない
- でも息子たちはこの家の住所でママ宛にずっと強盗で稼いだお金を送金していた
お金が絡むとしばしば人は豹変します。
遺産相続でモメたとか、金の切れ目は縁の切れ目なんて言葉もありますからね。
ママは自分宛にこの家に送られてきた現金書留を家主夫婦がチョロまかしたとにらみます。
家主であるダニエルとベス。ママはそれぞれに問いただしますが、二人とも知らぬ存ぜぬを押し通すばかり。
ダニエルかベスが嘘をついて隠してる?
…そう思って拷問を始めたよ。
- ママ曰く、嘘は悪魔の所業。だから嘘をついたらそれ相応の罰が必要
- 子供たちには嘘をついたら連帯責任で罰を与えて躾してきた
- ルールを理解して守らせるためにも厳しくしないといけない
- 罰は与えられる側も苦痛だが、与える側も苦痛
- ルールが秩序を保つ
ちょいちょい飛び出すママの正論。今度の意見もごもっともな内容です。
真っ直ぐな眼差しで「本当にあなた宛の郵便物は受け取っていないんです」と訴えるベスの本音を引き出すために、息子たちに命じて夫ダニエルを拷問。
これがまた…恐ろしいというよりグロいというより、つい目を背けたくなる痛々しさ。
しかしそれでもベスの「お金なんて知りません」という意見は変わりません。
…ってことは嘘つきはダニエル?
旦那もこんな痛い目にあっても「お金なんて知りません」なんだよな。
お金の在り処が判明しないことに苛立つんじゃ…というと、ママは相変わらずのお上品な振る舞いです。
なぜならこんな理念を持っているから。
ママは力やモノだけで周囲を恐怖に陥れ支配することはいたしません。
人間の本性とエゴを巧みに突っついて人心を掌握していくのです。
人間の本性とエゴとは何か。
それは愛する者や己に危険が迫ったとき、特に如実に現れる「自分さえ良ければそれで良い。他人なんぞ知ったこっちゃない」という心理 です。
そっか。人質になっちゃった友人らにしてみたら、ダニエルとベス・ママ一味とのいざこざは他人事だ。
そう。とんだとばっちりだからね。疑心暗鬼になったり裏切りあいが始まっていくんだよ。
みんながみんな、愛する者を守りたい、自分たちさえが助かればそれでいいと思うようになります。
そこにつけ込んで、ダニエルの嘘を暴いてお金を見つけ出す。
ママが異様なほどこの家に隠されている自分宛の現金書留に固執するのも、単に金の亡者だからではありません。
子供たちの身の安全、国外逃亡させるためには大金が必要だから。
ママはあちこちで正論を吐きますが、その奥には静かな狂気が潜んでいます。
こうして登場する全員が全員、己の保身・エゴの塊であることが次第に明らかに。
暴力や銃に屈しやすいという人間の弱さをも利用し、主導権を握り、己のエゴ全開の拷問パーティーへと発展。
不条理で不公平な立場に置かれた人々の本性にこそ、本当の怖さがある…というのが大まかなあらすじになります。
この世で何より怖くて醜いものは人間のエゴ 映画【マザーズデイ】
【マザーズデイ】深層心理が露わになる登場人物たち
絶対的な悪として、ひときわ目立つ優雅なママ。
観るものをも論破する勢いの正論と、異様な狂気から放たれる存在感には圧倒されます。
濃いキャラクターが続出する登場人物たちをご紹介いたしましょう。
ママは今作最恐の極悪人。
エゴイストの塊のような人物ですが、妙な説得力とカリスマ性を備えています。
子供たちに正しい教えもしてきましたが、曲がった解釈もチラホラと。
教育と洗脳がいかに紙一重であやういものかを考えさせられる存在です。
アイクはママ率いる犯罪一家の長男。
二人の弟とともに3人組で銀行強盗団を結成しているリーダー格の人物です。
長男らしくしっかりしている一面もあれば、ママのルールを守らずミスを連発することも。
一番ママの教えに忠実な下僕でもあります。
アドリーはママ率いる犯罪一家の次男。
とにかく血の気が多く、すぐにイラついて銃をぶっ放し、人質を血祭りにあげる残虐な青年です。
アドリーにとって、強さを誇示する方法=暴力。
常に虚勢を張ってますが、実は気が弱い小物ですね。
人を殺めてママに叱られたいMっ気たっぷりのキショい人物でもあります。
ジョニーはママ率いる犯罪一家の三男。
銀行強盗でしくじり銃弾に倒れますが、女性経験がないまま死ぬのは嫌だ、というティーンエージャーらしい願望を口にします。
終始ママ、ママ言っており、マザコン全開。
次男アドリーと同じくらいキショいですが、なんせ撃たれて瀕死なので出番は多くありません。
リディアはママ率いる犯罪一家の長女。
次男アドリーの妹であり、三男ジョニーの姉という立ち位置です。
3兄弟以上にママへの依存度が高い娘ですが、ママの存在が世界の全てではないことも薄々理解しています。
女性や子供が社会の中で不条理な目に遭ったり不公平な扱いをされやすいことを教え込まれ、ママの元から一歩を踏み出せるほどの勇気は持ち合わせていません。
ベスは今作舞台となる新居の家主ダニエルの妻。
打ちひしがれるほど辛い経験をしており、憂いがありながらも最も強い信念を持つ女性です。
夫を愛し、人質になってしまった友人らを気遣う聖人君子。
でもそれが本心なのかうわべだけなのか、というキナ臭さすら感じる人物です。
ダニエルは今作舞台となる新居の家主。
彼が玄関さえちゃんと戸締まりしていれば、みんな惨劇に遭わずに済んだのに、というトラブルメーカーです。
現実逃避に走りやすい性格なのか、助かるチャンスをみすみす逃し、我れ先に自分と妻ベスの安否を最重要視して取る行動の数々に辟易してきます。
ジョージはダニエル&ベスの友人である医師。
撃たれたジョニーの手当てをしながら鋭い観察眼でママ一味を分析し、この一家の真相にも迫る頭脳派です。
最もママ信奉者に見えるリディアの本心を見抜き、ちょっと味方にさえつけてしまいます。
登場人物の中で唯一の人格者で、己の保身を差し置いた献身的な人物です。
…と、この他にも、クリーニング店を経営する夫婦・婚約中のヅラ男&気の強いボディコン女性のカップル・医師ジョージの彼女であるシングルマザーやおひとりさま女史なんかも登場。
痛い拷問や凶弾に倒れるグロいシーンもあるので、血が…傷口がぁー…とスプラッターな展開が苦手な方は少々注意が必要かもしれません。
ただ、エグいグロいだけで完成しているB級ホラーとはひと味もふた味も違う強烈なママの狂気 は、一見の価値アリかと思います。
まとめ
独自の理念と独自の秩序で子供たちを愛し、育ててきたママ。
子供たちにとっても、世界はママが全てでした。
- 新居披露パーティーを楽しむ9人を襲った突然の恐怖
- 説得力ありまくりの異様なボスママが中心の犯罪一家
- 人間誰しもが持つエゴが次々と暴かれ、犠牲者も
ママのお上品かつ正論のおかげで犯罪一家=悪人という単純な構図ではなく、誰もがこの事態をわざわざ惨劇に変えた悪人に見えてきます。
人が最後に守るのは愛する家族や己自身。
ごく当たり前のことに思えますが、これこそが人間の本性でもあり、エゴイズムとも言える深層心理。
映画【マザーズデイ】は、不条理や不公平がはびこる世の中で怖いのは犯罪そのものではなく、心に潜んだエゴであることに焦点を充てたサイケデリックなホラー作品 でした。
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