2011年に公開され、第24回東京国際映画祭で最高賞を受賞したフランス映画があります。フランスでの歴代観客動員数も3本の指に入る大ヒット。
日本で過去に公開され、最高のフランス映画といわしめた「アメリ」を抜いて歴代1位の興行成績をおさめるほどの最高傑作の誕生です。
とある大富豪とスラム出身の青年。
実話に基づいたふたりの最高の出逢いと軌跡を描いた映画【最強のふたり】のあらすじ・キャストについてお届けします。
【最強のふたり】フランス・パリで繰り広げられる人間模様
翼よ、あれがパリの灯だ。
いや、それは違う映画のタイトルだから。
フランスやパリが関係する映画、というと思い浮かべてしまうのが大西洋横断飛行に成功した史実を描いた「翼よ、あれがパリの灯だ」
1957年に公開されたアメリカの名作映画ですが、実は観たことがありません。リンドバーグという実在した人物が描かれている伝記映画だそうで、【最強のふたり】も実在する人物を描いた作品です。
実話をもとにフランスで制作された【最強のふたり】は、随所にフランス映画らしいジワジワ心に沁み入る独特のドライな雰囲気があります。
洋画って言ったらだいたいハリウッド映画を想像しちゃうけどねー。
ハリウッド映画のような派手さはないけど、イントネーションが綺麗なフランス語と映像の繊細な感じがフランス映画の良いところだな。
イントネーションが綺麗って言いながら、知ってるフランス語といえばこんな程度なんですけどね。
- ボンジュール(Bonjour):こんにちは
- ボンソワール(Bonsoir):こんばんは
- メルシー・ボークー(Merci beaucoup):ほんとにありがとー
- アン・カフェ・シルブプレ(Un café, s’il vous plaît.):コーヒー下さい
知ってるフランス語、他にもあるよ。
- マカロン(Macaron)
- ミルフィーユ(Millefeuille)
- エクレール(Éclair):エクレア
- シュー・ア・ラ・クレーム(Chou à la crème):シュークリーム
ケーキばっかりかぃ(笑)
そういえば劇中でも、フォンダンショコラを生焼けのチョコレートケーキだと文句言ってるシーンがあります。
フランスは料理もデザートもパンも、食べ物は美味しいし街並みはお洒落だし、一度は行ってみたい場所です。
パリはパリでもほぼ邸宅内
一度は行ってみたい、むしろ住んでみたいとさえ思うフランス・パリ。美しい街並みも堪能出来る作品かと思いきや、【最強のふたり】のストーリーはほぼ邸宅内で展開します。
複数の使用人がいる邸宅内には、高価そうなアンティーク家具に絵画に数台の高級車。主人公のひとりは大富豪のオジサマです。
外国の富豪の邸宅って、ガチでお城かと思うような内装だよね。
劇中に出てくる邸宅の個室、お洒落なバスタブ付いててホテル並みの作りなんだよ。
実はこの豪邸の所有者であるオジサマは、頸髄損傷という大怪我をして首から下が麻痺しているため車椅子と介護が不可欠なんです。生活のほとんどが邸宅内なので、あまり多くの外出が出来ません。
そして主人公はもうひとり。
それはこの邸宅に介護人として面接に来た青年です。本気で介護人になりたくて面接に来たわけではなく、不採用のサインが欲しくて応募してきた変わり者。
なにその「不採用のサイン」って。
フランスの失業保険手当制度らしいよ。
日本にも失業手当ての制度がありますよね。フランスにもちゃんと職にありつけなかった人をサポートする失業保険制度があります。
国が違えば仕組みも違う。フランスでは就職活動したけどムリだった、という証明があると失業手当てが貰える模様。ただし雇用主がサインした書類が必要です。
とりあえず面接受けて、不採用って書いてくれれば働かずして失業保険が貰えるケースがあるようで、失業保険手当て欲しさに面接に来ちゃった、というわけですね。
面接受けて不採用になれば失業保険貰えるとか、ちょっと羨ましいんだけど。
羨ましがるような単純な制度でもないんだよ。
一見すると就活失敗しても手当てが貰えるなんて、たしかにちょっぴり羨ましいですね。でもここにはフランスの社会的背景が隠されてるんです。
- フランスは移民も多く受け入れているお国柄
- 移民もちゃんとフランス国民だが、就職には色々不利
- たとえ職に就けても、何かあると真っ先にリストラされる
全国民の生活を保証するために失業保険制度も完備していますが、長く働き続けられない裏事情もコッソリ描かれています。
何もかもが正反対のふたりの出逢い
社会的背景があるとはいえ、結局は雇用主と使用人って関係でしょ?
これがまた単純じゃない心理が絡み合ってくるんだよ。
ふたりの出逢いは単なる雇用主と使用人という関係から始まりますが、そんな間柄では終わりません。
互いが抱く胸の内にある感情が、正反対の立場という垣根を越えて奇跡とも呼べる友情を育みます。
実話を基にした奇跡の出逢い【最強のふたり】
【最強のふたり】実話に基づくストーリーに彩を添える登場人物
【最強のふたり】の物語の中心人物は、そのタイトルどおり「ふたり」がメインです。フランスの名優とコメディアンでもある俳優がキャスティングされ、見事にその役柄を演じています。
物語を大いに盛り上げる味のある脇役も含め、登場人物をご紹介いたしましょう。
フィリップは趣味のパラグライダーで頸髄損傷の大怪我をし、全身麻痺の障害を抱える大富豪。絵画やクラシック音楽、オペラを好み、性格は少々カタブツなところあり。
ワガママや傲慢さはないものの、フィリップの介護には相当の労力と我慢強さが必要なため、介護人として雇われる使用人はみな長続きしない傾向にありました。
雇ってはひと月と持たず辞めていく介護人を新たに募集したところ、フィリップは今後の人生に大きな影響をもたらすドリスに出逢います。
ドリスはフランスのスラム街に住むアフリカ系移民の青年。たくましい体格と大雑把で少々不躾な物言いをするタイプですが、心根は優しく思いやりのある性格です。
雇用人から不採用のサインをもらえば失業保険がおりる、という制度を活用するつもりでフィリップの介護人の面接に応募。
予想に反してフィリップに気に入られてしまい、仮採用になったことからふたりの間に少しずつ信頼関係が芽生えてきます。
マガリーはフィリップの傍らで業務のサポートを担当する美人秘書。
介護人採用面接の時からドリスに猛アピールを受けてますが、ことごとくかわしています。
イヴォンヌは規律に厳しく使用人を取りまとめるお局様。
当初は、ドリスの粗忽で荒いなりふりに嫌悪感も持っていました。
実は案外お茶目な性格で、他人の恋愛話などには興味津々。ワイドショーとか好きそうですね。
ドリスのおかげでフィリップが生き生きしてきたことを誰よりも喜び、ドリスに対しても徐々に信頼の念を抱いていきます。
マルセルは、フィリップに毎日必要となる介助の手順をドリスに教えてくれる介護士。
介助の「か」の字も知らないドリスがフィリップのお世話をしっかりこなせるようになったのは、マルセルがひとつひとつ丁寧に介助の仕方を伝授してくれたからです。
アルベールはフィリップ邸お抱えの庭師。
あんまり出番は多くありませんが、登場シーンではなかなか印象に残るコメディっぷりもありました。
ドリスいわく「イヴォンヌに気がある薄毛のおっちゃん」だそうです。
エリザはフィリップの娘。といっても血縁関係はなく養子です。
甘やかされて育ち、邸宅の使用人をちょっと見下す生意気な小娘。
ドリスに対しても上から目線で対応するので、とうとうドリスが憤慨してフィリップに文句を。
ドリスが放ったイチャモンどおりにフィリップがエリザを叱るシーンは見ものですよ。
ミナはドリスの妹。
ドリス家は母ひとり子8人くらいの大家族で、定職に就かずフラフラしていたドリスの代わりに家のお手伝いを任されていた頑張り屋さんがミナです。
アダマはドリスの弟。
ちょこっとだけ素行不良な反抗期の中坊って感じでしょうか。
ヤンチャがたたって問題を起こし、フィリップ邸に住み込んでいるドリスに助けを求めにやって来ます。
エレノアはフィリップが半年間も文通を続けている想い人。
まるで叙情詩のような文通のやり取りを続けているフィリップを見かねてドリスが一肌脱いで恋の成就の後押しをします。
…とこんな感じでメインのふたり以外にも登場人物はいるんですが、そんなに出番が多くありません(笑)
が、【最強のふたり】の世界観に笑いや感動をもたらすのに不可欠な面々です。
【最強のふたり】シュールでコミカルな会話の数々
さて、【最強のふたり】で描かれるふたりの友情。
そこかしこで展開される会話の数々には、ちょっぴりシュール、されど笑って和める名言がたくさんあります。
特に主人公のひとりであるドリスの容赦ないブラッキーなユーモアは印象的。
普通なら「おぅ…」ってなりそうなどぎつい言い回しすら、周囲を巻き込み笑顔にしていく存在感は圧巻です。
ということで「REONさんの心に響いた名言白書」をお届けします。
ノリの良さとストレートな表現がウリのドリス
ドリスはいつもいつでもハイテンション。
まずフィリップとの最初の出逢いにもなる面接で、こんな受け答えをしていました。
…面接で、どっかからの「推薦状」はあるかって質問に対する答えがコレかぃ(笑)
ジョークのセンスとアース・ウィンド・アンド・ファイヤー好きってところがいいよね♪
劇中、フィリップはクラシック音楽を好むことが分かるシーンがあります。
同様にドリスおすすめの音楽として、アース・ウィンド・アンド・ファイヤーの「セプテンバー」や「ブギー・ワンダーランド」が流れるシーンも。
アース・ウィンド・アンド・ファイヤー「セプテンバー(September)」↓
アース・ウィンド・アンド・ファイヤー「ブギー・ワンダーランド(Boogie Wanderland)」↓
ノリノリのドリスにぴったりの楽曲は、観ているこっちも踊りだしたくなるような選曲です。
そしてドリスはノリが軽いだけではなく、納得いかないことに対してははっきりモノを言うストレートな性格。
それがよく分かるのがこんなセリフに表れてました。
車椅子ごと荷台部分に乗るのが、フィリップにとっては当たり前だったんだよね。
そう。でもドリスにとって荷台は荷物や馬が乗るような場所。フィリップは普通に助手席に座って当然なのにって憤慨してた。
車椅子だから助手席に座らないで後ろに…というのはおかしいって感じたんですね。
車椅子だろうが身体が不自由だろうが、自分と同じように対等に接するのがドリスにとっての「当たり前」
特別扱いや腫れ物に触れるように接しない、真っ直ぐな心の持ち主なんだなというのがよく分かります。
レッテルを嫌うからこそ真摯に対応するフィリップ
ドリスはちょいちょい失礼なジョークもフィリップに言い放ちます。
たとえばフィリップがチョコ1個ちょうだいって言ってるのに、返した返事が「このチョコは健常者専用」
これは…かなりブラッキーなユーモア?
普通なら炎上ネタだな。
ところがフィリップはこんなドリスのブラッキーなユーモアがツボ。
なかなか荒々しいドリスのことをこう思っていたんです。
フィリップは車椅子生活であることや大富豪であるという部分に注目されるのを嫌うカタブツ。
何か特別なレッテルを貼らないで自分を見て欲しかったんだろうな、と思いました。
ドリスがありのままの自分を偏見や憶測で捉えないでいてくれるから、フィリップもまたドリスのありのままの姿を受け入れていきます。
こんな感じで互いの存在を決して卑下せず、ありのままの感情でぶつかり合う会話は時に静かに、時にユーモラスに展開。
感動あり笑いありのシュールなストーリーは、観る人によって受け取り方も様々かもしれません。
が、根底に隠された社会問題を重く受け止めず、コメディタッチを楽しみながらふたりの育んだ友情に感銘してもらえたらいいな、と思います。
【最強のふたり】今も続く本当の友情
【最強のふたり】の最大の見どころは、フィリップとドリスの友情物語が単なる脚本ではなく実話に基づいて描かれた点にあります。
劇中、頸髄損傷となった大富豪・フィリップは実在の人物フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ氏がモデルです。
本当にパラグライダーで大怪我しちゃったの?
フィリップ氏は1951年生まれで、1993年42歳の時にパラグライダーで大怪我したんだそうだ。
一方で、フィリップの人生に大きな影響を与えた彼の介護人・ドリスのモデルになったのは、アブデル・ヤスミン・セロー氏。
劇中ではアフリカ系移民の青年として描かれていますが、実在のアブデル氏はアルジェリア系の移民です。
アブデル氏は出逢った頃、いくつ?
24歳だって。フィリップ氏と一回り以上歳も離れてたんだね。
生活環境も年齢も趣味も、何もかもが異なるふたりに共通していたのは相手に対する率直な想い。
日本は移民を受け入れるお国柄ではないので、この辺のナイーブな問題に関しては深く理解しづらいかもしれません。
ただこのふたりの間には、由緒正しい大金持ちの白人と職に就くのもひと苦労の移民という生まれの違いも、身体が不自由とか生活が苦しいとかそんなナイーブな問題なんて一切関係なし。
実際にふたりは自分にあるもの・自分にないものを思い悩むわけでも卑下するわけでもなく、ごく当たり前にお互いを尊重しあって友情を深めてきました。
今でも友情は長く続いている実在のふたり。フィリップ氏とアブデル氏を映したドキュメンタリー映像 はこちら↓
【最強のふたり】のモデルとなった実在の人物フィリップ氏とアブデル氏。
劇中では陽気なドリスとカタブツなフィリップの関係は、数ヶ月から1年くらい?な感じで描かれています。
実際のお二方の共同生活は実に10年間もの長い間続いていたそうです。
さらにずっとパリでの生活だったわけではなく、二人でモロッコに移住しました。
そこでアブデル氏が現地の女性に恋をして…それぞれの将来を築くために雇用関係が解消されたんだとか。
それでも今なおふたりの友情は続いていて 、時折アブデル氏がフィリップ氏の元に遊びに来る間柄。
こんなステキな出逢いと、真の友情を築き上げた実話がベースの【最強のふたり】今イチオシの私の好きな映画です。
まとめ
日本語タイトルでは【最強のふたり】となっているこの映画。フランス語の原題は「Intouchables(アントゥーシャブル)」です。直訳すると「触れることができない」という意味。
- 舞台はフランス・パリ
- 頸髄損傷で全身麻痺となった大富豪とスラム街出身の移民青年が主役
- まるで正反対のふたりが育んだ友情を描いた作品
- ただの映画脚本ストーリーではなく、実話に基づいた物語
- モデルになった実在の「ふたり」は今も変わらぬ友情を育んでいる
本来なら出逢うこともなかったかもしれない、触れ合う機会もなかったかもしれないふたり。
本音で生き、偽善や欺瞞なく最高の友となった軌跡を描いた作品が【最強のふたり】です。
お互いを人として尊重しあい、まっすぐな感情でぶつかりあって友情を育む様は、人と人との出逢いの大切さを心に刻んで優しい気持ちになれる作品でした。
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