モダンホラーの巨匠S・キングは、小説だけでなく《書くことについて》という自叙伝も出版しています。
その中の一節にこんな文章が。
「足りない部分は読者に想像してもらうことが大事」
「読者が物語にのめり込み、文章を読んでることを忘れさせることが大事」
…たしかにのめり込んでしまう独特の世界観。
S・キング原作映画の中から、読者の想像を超えるホラーを描いた正体不明・ブキミ系6作品をお届けします。
IT/イット(1990)
映画【IT】は、文庫本にして全4巻の同名長編小説の映像化作品。といっても劇場映画ではなく、TV映画作品になります。
アメリカで2回に分けて放送されたものをくっつけた、3時間ほどの長尺バージョンです。
得体の知れないピエロ・ペニーワイズに怯える7人の子供たちの勇気と冒険のバトルホラーになっています。
映画【IT】のあらすじ
田舎町デリーで、ある日母親がちょっと目を離した隙に子供が突然いなくなってしまいます。
たくさんの警官たちが現場検証を進める中、この街の図書館司書の男性には思い当たる節がありました。
「あいつが帰ってきた」
実は30年前にも同様の行方不明事件が続発し、彼は仲間とともにペニーワイズと名乗るピエロの恐怖に遭遇した過去が。
あのとき彼を含む7人の少年少女たちは、知恵と勇気とを振り絞って団結して撃退。
しかしペニーワイズには、数十年ごとに姿を現わす周期性が。
「もしまた現れたらみんなで集まろう」
そう誓ってそれぞれが立派な大人になった7人は、唯一デリーの街に残った図書館司書の呼びかけに応じて帰郷することに。
ひとり、またひとりと子供の頃の恐怖やトラウマを思い返し、倒しきれなかったペニーワイズにトドメを刺してスッキリする成長譚です。
ブキミなピエロとの遭遇から決着まで。一気に描いた1990年TV映画【IT】↓
監督:トミー・リー・ウォーレス
キャスト:ティム・カリー、リチャード・トーマス、ジョン・リッター他
映画【IT】の見どころ
私は最初、《IT/”それ”が見えたら、終わり。》が本物で、こっちは完全に似せて作ったバッタもんかと思ってたんです。
が、これもちゃんとキングの小説を映像化したホンモノでした(←制作者の皆さん、ごめんなさい)
原作の中心プロットだけを抜粋して映像化した感がありますが、よくまぁ3時間程度に収めたなという編纂のすごさが見どころです。
- 大人になったルーザーズたちがメインであり、子供時代については回想シーンで説明
- デリーの街に帰郷する面々をひとりずつ紹介してるので、誰がどんなキャラクターか把握しやすい
- ペニーワイズはいかにも愉快な道化師ピエロ。あんまり怖くない
- …が、ガバっと喰うペニーワイズの面構えは「ひーーっ(泣)」ってなる
- 全米ではペニーワイズのキャラクターのせいで、ピエロ恐怖症が続出したらしい
子供時代・大人になってから・そして最終決戦に挑むまで。
結局これはどんな話なのよっていうのが丸分かりな流れになっています。
ただちょっと…。
ペニーワイズの正体のショボさ・フルボッコで撃退という展開なので、そこは残念な部分かなと思います。
ラスト萎えてもいいから、怖すぎずにITの世界を観たい方におすすめの作品です。
IT/”それ”が見えたら、終わり。(2017)
映画【IT/”それ”が見えたら、終わり。】は、1990年のTV映画版と同じくキングの長編小説《IT》が原作です。
要はリメイク版、そして今度は劇場公開用として制作された二番煎じ。
…かというとこれがまた、より一層ガッツリ怖くてブキミで強烈なお話になっています。
映画【IT/”それ”が見えたら、終わり。】のあらすじ
舞台はさほど開けてない田舎町デリー。
とあるお宅の風邪っぴきのお兄ちゃんは、暇を持て余す元気ハツラツな弟のために防水加工も施した折り紙の船をこしらえます。
降りしきる雨の中、その折り紙の船を持ってお外に遊びに行った弟。しかしそのまま二度とお家に帰ることはありませんでした。
以降、デリーの街では子供ばかりが大量に失踪し、お兄ちゃんやその友人たちも正体不明のピエロ・ペニーワイズの恐怖に怯えることに。
ときにはおどけ、ときには各々が怖いと思う姿に変身し、しまいには奇っ怪なダンスで急接近。
子供にしか見えず、みんなに同じように映るわけではないことから『それ』と呼んでいるペニーワイズとの出会いと恐れ、とりあえずの撃退劇までを描いた前編です。
もう少し詳しいあらすじやキャストについて、こちらでもまとめて紹介しております。
子供時代にのみ焦点をあてた《IT》の前編。映画【IT/”それ”が見えたら、終わり。】↓
監督:アンディ・ムスキエティ
キャスト:ビル・スカルスガルド、ジェイデン・リーバハー、フィン・ウォルフハード、ソフィ・リリス他
映画【IT/”それ”が見えたら、終わり。】の見どころ
2度目の映像化・初の劇場版ということで、この作品はかなり原作の流れを重視した展開になっています。
TV映画版では描けなかった凄惨なシーンもいきなりぶっ込み、観客のハートを鷲掴み。
そのままギュっと掴んで離さない、ホラーな見せ場が盛りだくさんなところが見どころです。
- キングの原作の前半・子供時代だけを丁寧に描いている
- ペニーワイズ役のビル・スカルスガルドの顔芸、動きがトラウマ級
- 出演はほぼペニーワイズか子供のみだが、子役が全員こぞって演技派
- 中心となる子役ジェイデン・リーバハーもイケメンだが、メガネ男子のフィン・ウォルフハードが恐ろしく美形
- ひとりひとりが抱える恐怖・トラウマの描写がえげつない
実はこの作品が全米公開される直前、2017年にペンシルベニア州リラッツボローという田舎町でちょっとした事件がありました。
まるでペニーワイズが実在しているかのように、街の排水溝に赤い風船が絡まっていたんです。
そりゃもう街は騒然、警官が出動する騒ぎに。
…まぁ「ペニーワイズどやw」という単なる近隣住人のイタズラですけどね。
ただ、出動した警官たちは「風船回収するの、むっちゃ怖かったから二度とやめて(汗)」というオチだったそうな。
そんな警官も怖がる仕上がり、赤い風船やペニーワイズの話題に乗り遅れたくない方におすすめの作品です。
IT/THE END “それ”が見えたら、終わり。(2019)
映画【IT/THE END “それ”が見えたら、終わり。】は、その名の通りTHE END。2017年の続編であり、キングの原作小説《IT》の後半部分の映像化作品です。
ルーザーズクラブとして友情と絆を深めた7人の子供たちの27年後が描かれています。
映画【IT/THE END “それ”が見えたら、終わり。】のあらすじ
かつてデリーの街を震撼させた、連続児童失踪事件。
あれから27年の月日が流れ、ペニーワイズと闘った7人の少年少女はそれぞれが大成功を収める大人に成長します。
「再び”それ”」が現れたら集結しよう」
27年前の誓いを胸に集まった少年少女たちが、あれから何を経験し、どう成長してペニーワイズとの決着をつけるのか。
全てが明らかになる完結編です。
また会えた…もう終わり。映画【IT/THE END “それ”が見えたら、終わり。】↓
監督:アンディ・ムスキエティ
キャスト:ビル・スカルスガルド、ジェームズ・マカヴォイ他
映画【IT/THE END “それ”が見えたら、終わり。】の見どころ
見どころは、これ以外言うことありません。
「とにかく観ろ」
…投げやりな意見ですが(笑)
監督もペニーワイズ役のビル・スカルスガルドも続投で、存分に怖い思いができるかと。
- 子供時代のペニーワイズとのひと悶着の後日談も描かれている
- 27年後、どう成長したのか・トラウマの真実・克服の過程・それぞれの苦悩が切ない
- 大人のみではなく、子供時代も映し出され、あの子役たちも拝める
- ペニーワイズの動きが前作以上に可愛かったり奇っ怪すぎて怖かったり、ブキミさ倍増
- 質屋のおっちゃん役として、原作者S・キング出演中
1990年のTV映画版でもひと通りのエンディングは迎えているんですが、あのとき描ききれなかった細かな部分も追求しています。
街の子供が消える理由、27年周期で出没する理由、ペニーワイズの正体不明や目的など。
明らかになるすべての「なぜ」の答えを求め、是が非でも結末を見届けたい方におすすめの作品です。
TV映画版との細かな違いについては、こちらで解説しています。ご確認にどうぞ↓
1408号室(2007)
映画【1408号室】は、同名の短編小説の映像化作品。
とあるホテルの一室を舞台に、そら恐ろしい体験をする事故物件系ホラーです。
映画【1408号室】のあらすじ
幼い娘を亡くして以来、神も仏も天国も地獄もあったもんじゃないと、信心も霊的現象も一切どうでもいいひとりの男性。
彼は心霊ルポライター作家として活躍するオッサンです。
今は妻とも別居して、ロサンゼルスの風に乗ってサーフィンやったり時々取材旅行に行ったりと、悠々自適に過ごしています。
まぁ取材といっても、どこぞのホテルが客寄せ目当てで語り始める与太話の収集程度。
どれもこれもありきたり、似たり寄ったりの心霊物語にはうんざりです。
そもそも彼は、何冊も心霊ネタの本でベストセラーを出しているわりに、一度たりとも実際に霊に会っただのラップ音を聞いただのという経験がありません。
それでも食っていくためにはお仕事お仕事…ということで、それっぽい話が聞けそうな場所にはホイホイお出かけしていきます。
そんなある日、彼宛に一通の意味深なハガキが。
「N.Y.のドルフィンホテル 1408号室には決して入るな」
やる気も霊感も信心もないけれど、彼はいっぱしのオカルト作家。
この一文に好奇心を掻き立てられ、ちょっと調べたらとんでもなく呪われた事実を知ることに。
過去の宿泊客がもれなく死亡、しかも1時間以内にという呪いの部屋で、あっさり心が折れてしまう不思議でブキミな体験談です。
足を踏み入れたが最後。余命は1時間。映画【1408号室】↓
監督:ミカエル・ハフストローム
キャスト:ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン他
※現在動画配信サービスでの取り扱いがありません。
映画【1408号室】の見どころ
ホテルが舞台のこの作品。キング原作映画では他にもホテル全体を舞台にした不朽の名作《シャイニング》がありますね。
あれの縮小版、一室のみで怖い展開が繰り広げられるといった感じです。
かなり原作に忠実に映像化してあるところが見どころかと思います。
- よくあるちょっと高級系ホテルが舞台なので、かえってストーリーが印象に残る
- なぜか1408号室でだけ屍人が続出。飛び降り7・薬4・首吊り5・切断2・窒息2・自然死22と、計56名がもれなくお陀仏の詳細が怖い
- 一度入ったが最後。どうあがいても逃げ道がないので観てるこっちも絶望する
- 死へのカウントダウン開始の合図が、爆音で流れるカーペンターズの名曲
- 亡くなった娘の霊も登場し、2度も死に目にあうので辛過ぎて切ない
怪現象にはビクッとさせられ、あの手この手でどんどん追い詰められる展開にゾワゾワします。
少し後半はファンタスティックなシチュエーションですが、ほぼ一人芝居のジョン・キューザックの名演技に引き込まれてグイグイ最後まで観てしまうかと。
ひとりで出張・ひとりで旅行、おひとり様でホテル宿泊する機会が多い方におすすめ(悪夢必至)の作品です。
あ。オマケでこちら、誰もが心癒される透き通る歌声のカーペンターズの名曲もご用意いたしました。
爽やかな朝に大切な人を思い浮かべる素敵な曲も、キング原作映画に登場するとしばらくはトラウマになるかもしれません(笑)
オカルト作家の悪夢の始まり、時計付きラジオから爆音で流れた音楽をしっとりお聴きください。
カーペンターズ「We’ve Only Just Begun(愛のプレリュード)」↓
セル(2017)
映画【セル】はキング自ら脚本も手がけた、同名中編小説の映像化作品。
セルとは携帯電話の意味で、現代の文化を反映させた異色のSFゾンビホラーです。
映画【セル】のあらすじ
ボストン空港に降り立ったコミック作家の男性は、離れて暮らす妻と息子に携帯電話で通話中。
しかし彼の携帯の充電は切れ、途中で接続が切れてしまいます。
…と同時に、空港ターミナルビル内の多くの乗降客たちに異変が。
携帯電話で通話していた誰も彼もが突然暴徒化し、殺し合いを始めたのです。
それだけでなく、着陸体制だった旅客機もコントロールを失ってターミナルビルに激突。空港内は大パニックに陥ります。
しかし突然の暴徒化は空港だけではなく、ボストンの街全体に広がっていました。
何が起きたかわからないコミック作家は、襲いかかってくる人々からなんとか逃れて地下鉄へ。
そこで出会った車掌と少女と協力しながら、このパニックの真相と街からの脱出を図ります。
人々が暴徒化した原因は、携帯電話からの怪電波。
結局誰も彼もが怪電波に感染し、無自覚のままゾンビ化しちゃうパンデミックホラーです。
人々が凶暴化。その感染源は携帯だった…映画【セル】↓
監督:トッド・ウィリアムズ
キャスト:ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン、
映画【セル】の見どころ
今やひとり1台、なんなら2〜3台使いこなす当たり前の便利グッズがケータイやスマホですね。
そんな誰もが持ってるアイテムから発せられる、目に見えない携帯電波で否応無しに狂っていく人々の姿が見どころです。
- 夜になると活動停止し、日に日に進化するゾンビ像が新鮮
- 演技派俳優ジョン・キューザックとサミュエル・L・ジャクソンの再共演
- 少女役があのどんでん返し映画《エスター》の主演女優イザベル・ファーマン
- ゾンビも怖いが、生き残ったまともな人間の精神もけっこう残酷
まさに正体不明、いまどきの世情で起こるパニックなので設定はよく出来てるようにも感じます。
ただ、なぜなんの目的でパンデミックが起きたのかは不明。少しだけ安っぽい部分も。
それでも結末にはいちまつの切なさがあり、キングが魅せたい世界観の押し付けに我慢できる方におすすめの作品です。
クリスティーン(1983)
映画【クリスティーン】は、同名の長編小説の映像化作品。
クリスティーンと名付けられたレトロなアメ車に宿る邪悪な意思が、持ち主や周りの人間を恐怖のどん底に突き落とすモンスターパニック系です。
映画【クリスティーン】のあらすじ
冴えない気弱ないじめられっ子の男子高校生は、ある日スクラップ一歩手前のオンボロな赤い車に一目惚れ。
お小遣いをはたいて、持ち主の老人からクリスティーンと言う名の赤い1958年型プリムス・フューリーを譲り受けます。
子供を逐一支配したがる親の反対をよそに、彼は自動車修理工場でバイトしながら赤い車を整備。
新車同然…とまではいかなくとも、相当なメンテナンスを施して大事に大事に扱っていました。
しかしその赤い車には人を惑わせ、勝手に動いて人を殺めるブキミな力が。
新たな持ち主となった男子高校生は見た目も性格もガラリと変わり、積極的だけど暴力的になってしまいます。
そして赤い車クリスティーンは、彼をいじめてた不良どもを轢いたり燃やしたりとその凶悪さが増幅。
悪魔の魂が乗り移った…とかではなく、車そのものがすでに邪悪だったという変わり種ホラーです。
クラシックカーに魅せられ狂っていく恐怖と惨劇。映画【クリスティーン】↓
監督:ジョン・カーペンター
キャスト:キース・ゴードン、ジョン・ストックウェル、アレクサンドラ・ポール他
映画【クリスティーン】の見どころ
ストーリーもちょっと変わってて面白いんですが、まるで生き物のようにうごめくレトロで可愛いアメ車の姿が見どころかと。
- この撮影のために、全米から23台もの赤いプリムス・フューリーが集められた
- フロント部分がまさに顔に見え、赤いカラーもクリスティーンという名前も艶っぽくて女性的
- しかも自己修復しては次々に恐怖を振りまく姿が恐ろしい
- あまりに男子高校生がクリスティーンLOVEなので、ヤキモチ焼くリア彼女が可愛らしい
- 劇中、センス抜群なオールディーズ音楽のオンパレード
私の父親がほどほどに車好きで、昔アメ車のシボレー・カマロに乗っていました。
その影響もあってか、幅広でちょっとデカめな車体・レトロ感満載なクリスティーンに魅了されっぱなし。
レトロ好き・車好き・オールディーズ好きな方におすすめの作品です。
…ということで、どっからこんな発想が!?と思うような正体不明・ブキミ系6作品をお届けしました。
どれも独特の世界観・展開なので、若干好き嫌いが分かれる作品群かと思います。
それでも斬新さとありふれた感がうまく融合しているので、このブキミさはクセになるかも。
全米NO.1の大ヒット映画【IT】シリーズだけでなく、変わり種のキングホラーにも注目していただけたら、恐悦至極にございます。
その他にも、ぶっ飛んだキングの世界が堪能できる映像化作品を、ザクっとジャンル分けしてご案内しております。
面白そうなS・キング原作映画はないかなー…と物色する際にぜひご利用ください。
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