S・キング原作映画の中には、結末がモヤっとしたり救い難い陰鬱な作品もいくつかあります。
歪んだ想い・やりきれない愛情・満たされる狂気。
精神を病む系・人間の心理に潜む怖さを描いた7作品をお届けします。
ミスト(2007)
まずは後味の悪すぎる鬱映画で有名な映画【ミスト】から。
S・キング小説『霧』の映画化作品です。
観たことなくても、「エンディングが衝撃的」「最後うわ……ってなる」ってな作品らしいと耳にしたことあるかもしれません。
映画【ミスト】のあらすじ
舞台はアメリカ・メイン州。
激しい嵐の翌日、街の人々は家の修繕や物資調達のためにスーパーマーケットへ。
湖近くに住む家族も、父親と8歳の息子で買い出しにお出かけします。
嵐のせいで停電中の店内には多くの客がおり、程なくして「霧の中に何かいる!」と叫びながら血まみれの男性が店内へ。
するとみるみる街全体が異様な霧に包まれ、マーケットの客達は「一寸先も見通せない濃い霧」と「霧の中の何か」に怯え、店内に缶詰状態となってしまいます。
ある女性は神の裁きだと狂信めいた発言で皆を煽り、またある男性は外に出るも身体が真っ二つの状態に。
妄想や思い込みではなく、確かに巨大な虫らしき化け物がマーケットのガラスに突進し、店内は大パニックに陥ります。
この異様な事態に客達の不安は極限に。
霧の中の化け物と対峙するモンスターパニックと見せかけて、人間の傲慢さや理不尽、絶望しかないバッドエンドホラー物語です。
映画【ミスト】の見どころ
見どころはとにかくラスト15分。
ネタバレの情報収集しないで観るべき作品かと思います。
- ストーリー的には終盤まで普通のパニックホラー。グロさはそんなに酷くない
- マーケットの客達の不安を煽る狂信おばちゃんがウザい
- アメリカで上映されたとき、狂信おばちゃんご退場に拍手喝采だったそうな
- 主演のトーマス・ジェーン、息子役のネイサン・ギャンブルの演技に引き込まれる
- 確かに「鬱映画」と言われるだけの衝撃のラストに胸が苦しくなる
この作品の代名詞でもあるエンディングの絶望感は、S・キングの原作とは異なります。
巨匠を唸らせた脚本ということでもちょっと有名、堕ちたい気分になりたい方におすすめの作品です。
…まぁ、好き好んで気分悪くなりたい方はそういないとは思いますが(笑)
キング原作映画の中でも押さえておきたい話題作ホラーですね。
シャイニング(1980)
ホラー小説の巨匠キングと異種独特な狂気の世界観を持つキューブリック監督。
この2人がタッグを組んだことで大注目を集めた映画【シャイニング】は、作品をどう解釈すればいいのか物議を醸す不思議ホラーです。
映画【シャイニング】のあらすじ
冬の間は豪雪のために閉館する、老舗の『オーバールック・ホテル』
宿泊客も従業員も全員引き上げ、建物の老朽化を防ぐために管理人だけが滞在します。
しかしかつてこのホテルでは、管理人一家による凄惨な一家心中事件が。
それを承知で管理人の仕事に応募した自称作家の一家にも、同じような惨劇が訪れます。
閉鎖空間で追い詰められた人間が、狂気に満たされていく物語です。
もう少し詳しいあらすじ・キャストについてはこちらもどうぞ↓
強烈なインパクトのビジュアルにうなされる映画【シャイニング】↓
監督:スタンリー・キューブリック
キャスト:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド他
映画【シャイニング】の見どころ
原作の良さが活かされていないということで、キングとキューブリック監督の間でひと悶着もあったこの作品。
皮肉なことに、見どころはそのキューブリック監督のセンスにあると言えます。
- 何でもないシーンでも、心がザワつく不敵な怖さがある
- 対照的・抽象的な映像にいつしかドップリ侵食され、世界観にのめり込む
- 誰にでも起こりうる閉塞感からの心理変化の描写が絶妙
- 次第に狂う姿のジャック・ニコルソンのインパクトが強烈
これは観る人によって感想も十人十色。
さらに観るたびに新たな発見があったり違った感想を抱いたり、本当に不思議なホラーです。
余韻に浸ってあれこれ考えるのが好きな方にジャストフィットな作品かと思います。
ゴールデン・ボーイ(1998)
映画【ゴールデンボーイ】は、S・キングの4つの中編作品が収められた『四季』の夏の章を映像化した作品です。
原題《APT PUPIL》は、最適な生徒という意味。
知的欲望と鬼畜な欲望で満たされていく学生と、残虐な戦時体験の過去を持つ老人のサイコパスホラーです。
映画【ゴールデン・ボーイ】のあらすじ
成績優秀・スポーツ万能・おまけにイケメンな男子高校生は、授業で取り上げられたホロコーストに興味を抱きます。
ホロコーストとは、第二次世界対戦時にドイツ・ナチスが行った大量虐殺のこと。
戦時下という特殊な状況とはいえ、大義名分を掲げた殺人行為に魅了された男子高校生は、貪るように当時の資料を読み漁る毎日。
そしてある日偶然、バスの中で実際にホロコーストに加担した老人を発見します。
かつて強制収容所の将校だった元ナチス。
今はひっそり暮らしていた老人を取っ捕まえ、身分をバラされたくなければあの時の残虐な実体験を話して聞かせろと脅します。
黒歴史として封印していた過去を語るうちに、その邪悪さが蘇った老人。
ナチスの行為に大きな魅力を感じて残虐性に目覚めた男子高校生。
2人の残酷な深層心理が、ついに他人の命を奪うという欲望を叶える狂気に変わる、胸くそ悪い物語です。
狂気に目覚めた若者と、狂気を思い出した老人のサイコな映画【ゴールデン・ボーイ】↓
監督:ブライアン・シンガー
キャスト:ブラッド・レンフロ、イアン・マッケラン、デヴィッド・シュワイマー他
※現在動画配信サービスでの取り扱いがありません。
映画【ゴールデン・ボーイ】の見どころ
第二次世界対戦でのナチスの凶行は、今でもあからさまに取り上げることをヨシとしない世界の汚点です。
そんな重すぎるテーマのキング小説を映画化しちゃったところが見どころでしょうか。
- 決して作り話ではない戦時下の残虐性が重い
- 人の心に棲みつき、理性で抑えるべき衝動が剥き出し
- 犯罪を煽動しかねない問題作
実はキングの原作小説では、この作品以上に異常でサイコな結末になっています。
理性が吹っ飛び、欲望のままに突っ走る姿が陰鬱すぎて、これぞまさに病んだ人間模様。
胸くそ悪さNO.1の絶望ホラーをお探しで、気丈な精神をお持ちの方にしか向かない作品です。
ペットセメタリー(1989)
映画【ペット・セメタリー】は、キングの同名小説の映像化作品。
直訳すると動物の墓という意味のタイトルですが、動物モノというより家族モノですね。
深すぎる愛情が禁忌を犯し、死者を蘇らせちゃうゾンビ系の切ない映画です。
映画【ペットセメタリー】のあらすじ
メイン州の田舎町に越してきた4人家族。
幼い娘と息子を持つ医者の夫婦は、広い庭付き一軒家で、お向かいに長年住む老人とも交流を深めて幸せな毎日を過ごします。
ただ一つ懸念があるとしたら、家の前の道路を昼夜問わず猛スピードで突っ走る大型トラックの存在だけ。
案の定、娘の可愛がっていたネコが轢死してしまいます。
悲しむ様子を見かねたお向かいの老人は、一家の庭から通じるペットの墓地の先にある、ミクマク族という種族の埋葬地へと案内します。
呪術めいたその場所に埋葬したネコは、翌日腐臭を放ちながらも生き返って帰ってくるという珍事が。
そんな出来事があった後、この一家の幼い男児が両親の目の前でトラックに轢かれるという事故が起こります。
悲しみに暮れた父親は、悩んだ挙げ句ミクマク族の埋葬地の力に頼ることに。
そうして息子はネコの時と同じように蘇生しますが、それはもはや我が子ではなく邪悪な別の生き物。
愛する者を亡くしたら誰もが願う心情と、この世の真理の無情さを描いた物語です。
映画【ペットセメタリー】の見どころ
同じ目に遭ったなら、同じ想いを抱くかも知れない…。
そんな共感を覚えるストーリーに込められた怖さと悲しさがこの作品の見どころかと。
- グロさ・狂人・鬼畜な怖さはない
- 心の底から湧き上がる本音の欲望に胸が痛くなる
- 禍々しい墓地・蘇生して変貌した姿・物々しい音など視覚的な怖さは充分ある
- S・キングも牧師役で出演中
男児の元の愛らしさと蘇生後のチャッキーばりの形相のギャップは、観ていて魂が震えます。
愛しさと切なさと怖さに浸りたい、そんな夜におすすめの作品です。
痩せゆく男(1996)
映画【痩せゆく男】は、ちょっと迷信めいたジプシーの呪術で苦しめられる男の姿を描いた同名小説が原作です。
痩せるという英語には、馴染み深くポジティブな意味で使われる「スリム」や「スレンダー」がありますが、原題《THINNER》のThinも痩せた状態を指す単語。
特に褒め言葉でもなく、ただ痩せ細りすり減っていく様が描かれたこの作品にぴったりなタイトルになっています。
映画【痩せゆく男】のあらすじ
物語の主人公は、かなりポッチャリ体型・食べるの大好きな愛嬌ある弁護士。
悪徳というほどワルでもなく、仕事は順調・やり手の彼は、甲斐甲斐しい若妻のサポートもあってダイエットしています。
が、本気で痩せる気はさらさらありません。いつでもガッツリ食べまくるのがモットーです。
そんな彼はある晩に、車で帰宅中に人身事故を起こしてしまいます。
轢いてしまったのは結構なお歳を召したジプシーの老婆。残念なことに命は助かりませんでした。
この事故で弁護士の経歴と地位と名誉を失いたくない彼は、懇意にしている警察署長と判事を抱き込み、でっち上げの証拠で無罪になるよう働きかけます。
身内を亡くし、悲しみに暮れたジプシーの長老。
民族差別で蔑まれ、償いも謝罪もないことから、こうひとこと呟いて彼に呪いをかけることに。
「痩せていく……」
それからというもの、いくら食べてもみるみる痩せ細る弁護士、少しづつ精神を病み容姿も変わり果てていく署長や判事。
呪いを解くようジプシー長老に掛け合いますが、そんな簡単には応じません。
たとえ呪いを解くにしても、それは消えることのない非道な選択を強いられる方法でした。
人の傲慢さと身勝手さが生み出す戦慄の結末を迎える物語です。
映画【痩せゆく男】の見どころ
よくまぁ「痩せる」というテーマをここまで広げてホラーにしたな。
…というストーリーが最大の見どころです。
- S・キングの発想力の凄さに圧倒される
- ユルいコメディタッチな演出からジワジワ怖くなる流れが面白い
- 上流階級なら下層民も蔑ろにしても構わない、といった根強い人間の醜さ
- 当たり前のように蔓延する民族差別問題も恐ろしい
- オカルト的なホラー要素があるが、対抗する手段の現代的要素との優劣も見もの
- 自分の作品にチョイ役で出るのが好きなS・キングが、ドラッグストア店員として登場
ただ主役の弁護士を悪人仕立てにしているわけではなく、思わず応援したくなるキャラクター性が、単純なテーマ「痩せる」を大いに盛り上げてくれています。
分かりやすいストーリー展開、「あー…やっちゃったね」という期待を裏切らない結末がご所望の方におすすめの作品です。
ミザリー(1990)
映画【ミザリー】は、怖いオバサンが出てくるヤツ…で有名になった同名小説の映像化作品。
一見すると怖いオバサンの名前がミザリーなのかと思っちゃいますが、劇中に登場する小説のタイトルから持ってきています。
他にもミザリーという単語が持つ意味「惨め・悲惨」も込められた、ありそうであって欲しくないリアリティーあるヒューマンホラーです。
映画【ミザリー】のあらすじ
巷で大人気のロマンス小説「ミザリー」シリーズ。
執筆した人気小説家は、最終章の原稿を書き上げひと段落した頃に、自動車事故で大怪我を負ってしまいます。
その事故から救い出してくれた命の恩人は、偶然にも「ミザリー」シリーズの大ファンだという女性。
どこにでもいそうな温和な中年オバサンは、熱狂的ファンであることを名乗り、小説家の看護を買って出ます。
初めのうちこそ甲斐甲斐しく看病してくれた中年オバサンですが、まだ未発表の「ミザリー」最終章をチラ見してからジワジワと豹変。
看護の名の下に監禁へと様相は変わり、納得できない「ミザリー」シリーズ結末を書き変えるよう強要します。
大怪我のせいで思うように動けない人気小説家。
熱狂的過ぎるファンの行き過ぎたストーカーのような行為。
普通に見える人の狂気がおぞましく、かつ拷問の痛々しさもある物語です。
映画【ミザリー】の見どころ
この作品の見どころは、このひとことに尽きるかと。
「普通の中年オバサン、怖すぎ」
熱狂的ファンを熱狂的に演じたキャシー・ベイツの顔芸が最大の魅力かもしれません。
- キャシー・ベイツはこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞
- …かといってホラーなオバサン専門というわけでもない
- ゴールデングローブ賞でもドラマ部門の主演女優賞歴のある演技派
- とにかく笑顔が不気味すぎてトラウマ級
- 恐怖体験する小説家のネーム「ポール・シェルダン」は、あの有名な作家「シドニィ・シェルダン」からお借りした
ストーリー的には、大人気作家がストーカーじみた狂気のファンにいいようにイジられる、といったありきたりな内容です。
が、どれほど熱狂的ファンが恐ろしい存在なのか、日常に潜んでいるかもしれない、非日常の狂気に触れたい方におすすめの作品です。
あぁそういえば、実はキングの原作小説《ミザリー》では、もっと酷い有り様になっています。
映画では足を潰す…という拷問シーンがあるんですが、原作では斧でぶった斬り。
さらに止血のために焼かれ、ついでに親指もチョンパされるというグログロしさ。
とことん怖いオバサンを堪能したい方はぜひ原作にもチャレンジあれ(笑)
ライディング・ザ・ブレット(2005)
映画【ライディング・ザ・ブレット】は、2000年にインターネット限定で発表したキング小説の映像化作品。
かつてキングが事故に遭った際の臨死体験から構想した、生と死を見つめる静かな死生観の妄想ホラーです。
映画【ライディング・ザ・ブレット】のあらすじ
特に将来の夢があるわけでも、生きる目的があるわけでもない大学生。
つい最近、彼女にフラれて勢いというか成り行きというか…自殺未遂を図ります。
といっても、ちょっと擦り傷程度のリストカット。
そんな漠然と死に魅了され始めた彼の元へ、故郷の母危篤の報せが入ります。
6歳の時に父を亡くした彼にとって、肉親は大好きな母だけ。
大急ぎで母の元へ、故郷への道のりは190km。ヒッチハイクを繰り返しての旅の始まりです。
しかし彼にはあまり故郷に赴きたくないたくさんのトラウマとなる出来事がありました。
何度も死んでもいいやと投げやりになっていた大学生が、最愛の母の危篤に直面し、生きること・生きたいという本心を思い出すファンタジックホラー物語です。
ネット限定発表小説の映画化作品【ライディング・ザ・ブレット】↓
監督:ミック・ギャリス
キャスト:ジョナサン・ジャクソン、デヴィッド・アークエット、クリフ・ロバートソン他
※現在動画配信サービスでの取り扱いがありません。
映画【ライディング・ザ・ブレット】の見どころ
この作品の見どころは、S・キングが、どんな死生観を持っているのかを垣間見れるところ。
ホラー小説で散々あんな惨殺やこんな死に様の人物を書き上げている巨匠の脳内が、やっぱりファンタスティックにぶっ飛んでるのがよく分かります。
- 死の観念に捕らわれた若者、という、現代でも居そうな主人公
- まだ人生経験が未熟で、思想が曖昧な者が陥りやすい孤独感と恐怖感を描いている
- 1969年が舞台となっており、当時流行ったナイスな洋楽が挿入曲
- ヒッチハイクで乗せてくれる運ちゃんたちが、アクが強くていい味わいのキャラ
- ノリの良い世界観と摩訶不思議な妄想、現実がゴッチャなややこしいストーリー
人生楽ありゃ苦もあるさ。
誰でも思い込みで落ち込んだり、心がすり減る人生を歩んでいるかと思います。
S・キングの作品でよくある「見えない強迫観念」のホラー要素を醸しつつ、人間の心の変化を感じ取るお話ですね。
超常現象も化け物も血がブッシャーもないけれど、なぜか感じる日々の不安の答え探しをしたい方に向いてる作品かなと思います。
…ということで、誰の身にも起こりうる心理ホラーを精神を病む系・怖いのは人間部門と称して7作品お届けしました。
人間の業や心の弱さから生じる狂気を、モヤっと後味悪く仕上げた「キングらしいストーリー」 の映像化ってけっこう難しいと思うんですよね。
それでもどの作品も、単調で退屈にならないよう展開に工夫がなされています。
ホラー映画ニガテだけど、これなら観れるかな…という参考になれば恐悦至極にございます。
その他のS・キング原作映画もピックアップしてお届け中です。お好みのジャンルからキング作品をチョイスするお役立てにどうぞ。
S・キング作品をもっと詳しく知りたい・大ファンの方へ、こんなコンプリートガイドも発売中
- 2019年公開シャイニング続編《ドクター・スリープ》までの全映像化作品を完全網羅
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