人間には怖いもの見たさという興味本位があります。
おかげでホラー界は大盛り上がり、S・キングはその第一人者的なホラー作家です。
…が、なにもグロい・怖い・ちょっとイカれた作品ばかりではございません。
「キング=ホラー」の概念を覆す、怖いのダメな方でも安心してお涙頂戴されちゃう感動ヒューマン4作品をお届けします。
スタンドバイミー(1986)
まずはキング原作映画の中でも、名作中の名作とも言える【スタンドバイミー】から。
非ホラーの中編小説が収められた《恐怖の四季》の秋の章『THE BODY』の映像化作品です。
BODYは体の意味の単語ですが、この作品中では体は体でも死体の意味のほう。
好奇心旺盛な4人の少年が、死体を発見しに旅に出る青春アミーゴです。
映画【スタンドバイミー】のあらすじ
舞台は1950年代の古き良きアメリカ、オレゴン州の小さな町キャッスル・ロック。
それぞれが複雑な家庭環境を抱える仲良し4人組の少年たちは、大人の真似ごとをして背伸びする12歳のやんちゃ小僧どもです。
4人はギャンブルめいたカードゲームに興じながら紫煙を燻らせ、ワルぶって粋がる日々。
そんな彼らのうちの一人がある日、そこそこ遠い町外れで死人が出たらしい噂を聞きつけます。
「死体を発見!しかも1番に!ってクールじゃね?」
…ということで、好奇心旺盛な小僧4人組は、ちょっとした旅支度を整え死体探しの旅に出ることに。
道中ガラの悪そうなくず鉄置き場のオッサンと猛犬にビビったり、年上の不良に絡まれたり、道無き道の沼地でヒルに噛み付かれたり。
度胸試しに迫り来る汽車の前に立ちはだかったかと思えば、レール1本しかない橋を通ってやっぱり迫り来る汽車に慌てふためいたり。
本当は怖い思いをいっぱいしながら、恐れ知らずがカッコいいと強がるお年頃の少年たち。
長い人生でたった2日間の出来事だけれども、辛さも怖さも悲しみも喜びも分かち合った、決して忘れない友情と絆の思い出話です。
映画【スタンドバイミー】の見どころ
子供の頃って、今思い返すと何がそんなに楽しかったんだろう…って遊びに夢中になったことありませんか?
なぜかいつまでも深く思い出として残る子供時代の体験談。
「あの頃の友が人生で最高の出逢いだった」という思い出に共感してしまうストーリーが見どころです。
- 「死体探し」なんて物騒で滅多にない体験話が気になる
- 大人に絶対服従の立場の少年たちの、強がりや弱さに一喜一憂する
- アメリカンなカントリー風景がノスタルジックで美しい
- 実はかなりキャストが豪華
4人組の少年の中で1番のイケメンくん、リヴァー・フェニックスは話題の映画《JOKER》主演ホアキン・フェニックスの実兄です。
私はリヴァー・フェニックスが大好きで、すごく憧れていた俳優さん。若くして急逝した時には、むちゃくちゃ泣いた覚えがあります。
そんなリヴァー・フェニックスの代表作の一つでもあり、キーファー・サザーランドやジョン・キューザックも出演していて、お宝感も満載。
まっすぐな純粋さと無邪気さと、豪華キャストにクラクラしたい方におすすめの作品です。
そしてこの作品のもう一つ大きな魅力。
それはテーマ曲にもあるかと。
映画タイトルを聞いただけで、私の脳内では毎回あの名曲も勝手にリピートアゲインされます。
歌詞もストーリーの世界観の一部になっているから、映画とワンセットで思い出してしまうのかも。
和訳付きでベン・E・キングの名曲もぜひご堪能下さい。
ベン・E・キングの名曲《STAND BY ME》↓
グリーンマイル(1999)
映画【グリーンマイル】は、毎月1冊ずつ出版という変わった形式で世に放たれた同名小説の映像化作品。
ネタバレを防ぐために薄めの文庫本でストーリーを小出しにし、私はこの小出し6巻バージョンで原作を読みました。
今では上下巻の文庫本もある、刑務所内での不思議な死刑囚と看守を描いたファンタジーヒューマンです。
映画【グリーンマイル】のあらすじ
世界恐慌の影響で失業率25%、失業者数1200万人という大打撃を喰らった1935年のアメリカ。
凶悪犯罪者も増加し、捕まって死刑宣告を受けた囚人たちは、死刑執行間近になると南部にある刑務所舎房に移送されていきます。
この舎房の中には「グリーンマイル」と呼ばれる道、罪を償いながら余生を過ごした死刑囚が最期に歩く通路がありました。
そしてこの死刑囚専用舎房で、囚人の最期を看取る役目を担うひとりの看守は、忘れられない死刑囚との出逢いと別れを経験します。
2mを越す大きな身体の黒人の男。
看守が新たに担当することになったこの大男は、双子の幼い姉妹を凌辱し、殺害したという残忍な罪人です。
しかし刑の執行までの間に交流を深めた看守は、この大男に不思議な癒しの力があること・実は無実の罪で死刑を待つ身であることを知ります。
他人の邪悪さ・痛み・辛さを感じ、癒すという不思議な能力を持った死刑囚の大男と、最期を看取る看守との心の繋がりを描いた無情で非情な物語です。
罪と罰、善と悪の無情が切ない心の交流。映画【グリーンマイル】↓
監督:フランク・ダラボン
キャスト:トム・ハンクス、マイケル・クラーク・ダンカン、サム・ロックウェル、デヴィッド・モース他
映画【グリーンマイル】の見どころ
刑務所内という限られた世界観の中で繰り広げられる、人と人との心の交流。
この作品の見どころは、救いがあるようで酷なほど現実を反映したストーリーにあるかと思います。
- 3時間ちょっと。淡々と長々と進むストーリーだが魅入ってしまう
- 登場人物は犯罪者か看守という、善人か悪人かの両極端
- …とはいえ看守=みな善人ではなく、死刑囚=みな悪人でもない複雑なキャラ
- 死刑囚の大男の能力はファンタジー過ぎだが、物悲しさが増す演出でもある
- 偏見でひとを判断することの恐ろしさ・不条理さがしんどい
どうすることもできない生と死や罪と罰の在り方、優しすぎる人間にどれほどこの世が酷で非情なのか。
優しい世界と優しくない世界が混在していて、人は必ずしも報われるとは限らない無情さもあるのに奇妙な清々しさも感じます。
ザクザク心がえぐられながらも、感動の涙を滲ませたい方におすすめの作品です。
ショーシャンクの空に(1994)
映画【ショーシャンクの空に】は、キングの中編小説《恐怖の四季》の春の章である『刑務所のリタ・ヘイワーズ』の映像化作品。
刑務所を現代社会の縮図と捉え、どんな環境にあっても希望を見失わない前向きなヒューマンドラマです。
映画【ショーシャンクの空に】のあらすじ
妻とその愛人を射殺した罪で終身刑を喰らった元銀行員。
彼にはそんな犯罪を犯した事実はないものの、刑務所にぶち込まれてしまいます。
収監先はショーシャンク刑務所。
そこは過酷で完全なる管理社会でした。
囚人となった元銀行員は、刑務所所長や主任刑務官からは脅され、荒くれ者の受刑者からは性的対象としてお尻を狙われ、散々な服役人生を歩みます。
しかし彼は割と良識的、されどどこからともなく物資を調達してくる受刑者と親しくなり、さらには主任刑務官の遺産相続問題を解決するなど、「シャバ時代の才能」を活かして立ち位置を確立。
刑務作業の図書係も真面目にこなし、やがて所長が経費をパクって不正していることまで突き止めます。
これをネタに所長に掛け合い自由を求めるものの、所長のパワハラが炸裂。
不正の片棒を担がされることにもなりますが、こんな劣悪な環境下でも自由を掴み取るため、決して諦めず頑張る姿に勇気をもらえる物語です。
希望を見失わないための人生の教科書。映画【ショーシャンクの空に】↓
監督:フランク・ダラボン
キャスト:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン、ウィリアム・サドラー他
映画【ショーシャンクの空に】の見どころ
この作品の良いところは、刑務所が舞台なのに重苦しさがないところ。
加えて刑務所モノと言ったらガタイの良さと力任せでどうにか脱獄する話が多いんですが、主人公のキャラクターの特異さが見どころかと思います。
- 受刑者だけでなく、所長も主任刑務官もたいがいな悪人
- 知的労働者階級の元銀行員が知識も使って脱獄して悪人を懲らしめる…という発想が真新しい
- 無実なのに20年も服役し、その間腐ることなく希望を持ち続けたことがすごい
- キングの原作小説から端折られた場面も多いが、完成度が高い
原題の「REDEMPTION」には、贖罪という意味があります。
受刑者が罪を償って出所…ではなく、脱獄して刑務所内部の汚職の贖罪をさせるストーリーは、ちょっと勧善懲悪な感じでスカっとします。
さらに環境のせいにしないで、己の希望を捨てない芯の強さに身が引き締まる思いも。
家庭や学校や職場や社会で、ちょっと心が折れそうな出来事に見舞われて腐りかけている方におすすめの作品です。
アトランティスのこころ(2001)
映画【アトランティスのこころ】は、5部構成になっている同名小説の映像化作品。
1作丸ごとではなく、第1部にあたる《1960年 黄色いコートの下衆男たち》をけっこうイジり、超能力を持った謎の老人と少年の交流を描いたヒューマンドラマです。
映画【アトランティスのこころ】のあらすじ
物語の主人公は、少しおとなしめの11歳の少年。
彼は欲しいものがあってもおねだり出来ず、この歳にしてすでに半ば人生を諦めているような子供でした。
なぜなら幼い頃に父親を亡くし、生活のために自分磨きのために、朝から晩まで働く母親と二人暮らしの母子家庭だったから。
そんな少年の住むアパートの2階に、ある日謎めいた老人が越してきます。
実はこの老人には人の心や未来が垣間見える超能力があり、その力を付け狙う組織から逃亡中の身。
一人ひっそりこの地に降り立った老人と、いつも一人で留守番をする少年。
次第に2人は友情にも似た交流を深め、少年は沢山のことを老人から教わります。
たとえば色んな本の話、たとえば好きな子との未来の話、たとえば純粋な心の目を見開けば真実が見えるようになるという話。
老人と出逢ったことで少しずつ心が豊かに成長していった少年は、やがて老人に特別な力があること、何かから追われていることにも気付きます。
そして子供ながらにどうにか助けたい・守りたいと願うように。
しかし老人は追っ手から再び逃れる準備をするも連行され、老人と少年は満足な別れも出来ぬまま二度と逢えない存在に。
今の自分があるのは老人との出逢いがあったから…と今はすっかり大人になった男性の心に深く刻まれた、淡い少年時代の回顧録です。
一生忘れないあの頃の老人との友情。映画【アトランティスのこころ】↓
監督:スコット・ビックス
キャスト:アンソニー・ホプキンス、ホープ・ディヴィス、デヴィッド・モース他
映画【アトランティスのこころ】の見どころ
美しくもあり陰りもあり、楽しくもあり傷跡でもある子供の頃の遠い記憶。
この作品の見どころは、観ていてちょっぴり複雑な気持ちになる人間模様かなと思います。
- 少年と老人が育んだ友情が温かい
- 知的な会話・優しい触れ合い。人と人との繋がりの素晴らしさにジーンとくる
- 少年も老人も人生に希望と諦めを持ちつつ、今を大切に生きている
- 過ぎ去った過去に楽しさも悲しみもあり、あのとき得たものを懐かしむ哀愁もある
「人は誰でもアトランティスのような幻国にいる。けれど大人になると多くを見すぎて幻の国も消えてしまう」
こんな教えを老人は少年に伝え、2人の出逢いと別れは一生消えない思い出に。
しんみりと寂しげな眼差しで過ぎ去った過去を懐かしみたい方におすすめの作品です。
…ということで、ホラーだけではないS・キング原作映画を感動溢れるヒューマン部門と称して4作品をお届けしました。
どの作品にも共通することは、「同じ体験は二度とやって来ない」というところ。
何気ない毎日が変わり映えしない日々に感じても、それは必ず過去の出来事になっていきます。
時間は決して止まらないから。
そしていつか振り返ったとき、かけがえのない経験だったと気付くかもしれません。
少し心がささくれたとき、キングの描くヒューマン作品を思い出し、1日1日を大切に過ごすきっかけになったら恐悦至極にございます。
その他モダンホラーの巨匠らしいキング原作映画もどうぞ。
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