昼夜問わず、病人・ケガ人を搬送する救急車。
日本なら無料で素早く病院に駆け込んでくれますが、海外も同じわけではありません。
人口過密都市にも関わらず、公的な救急搬送車の台数が圧倒的に少ないメキシコシティ。
民間救急救命隊として活動する一家に密着したドキュメンタリー映画【ミッドナイト・ファミリー】の解説・考察をお届けします。
この記事で分かること
- ドキュメンタリー映画【ミッドナイト・ファミリー】
- …の解説と考察
- 予告動画・DVDブルーレイ情報
【ミッドナイト・ファミリー】メキシコシティの深刻な問題
救急車って乗ったことある?
…貧血で意識失って、2回ほど。
救急車に乗った経験がなかったとしても、サイレンなら頻繁に聞いたことがあるかと。
いざという時むちゃくちゃ頼りになる存在ですが、数分、いや数十分待っても救急車がなかなか来ない国があります。
それがアメリカ北下にある中南米の国・メキシコ合衆国。
なんと首都メキシコシティでは、人口900万人に対し、行政が運営する救急車が45台未満しかありません。
ちなみに東京都は人口1,312万人に対し、236台が配備されています。
日常的に、絶対不可欠な救急車。
メキシコでは明らかに足りない台数をどう補っているかというと、民間人による救急車というのがあるそうで。
その数およそ70〜80台。
民間というからには有料、救急搬送業務で生計をたてる人々がいらっしゃるんです。
映画【ミッドナイト・ファミリー】は、そんな民間救急車を個人で営む、とある家族のお話です。
- 監督は、28歳の若きドキュメンタリー監督ルーク・ローレンツェン氏
- スタンフォード大卒業後、メキシコシティ出身のルームメイトとメキシコへ
- その当時住んだアパートの隣に市立の総合病院が
- アパート前で救急車を洗車する、若い兄弟に興味本位で声をかけた
- …ら、闇深きメキシコ救急救命事情を知り、約3年間ほど彼らに密着
ルーク・ローレンツェン監督は、高校時代のスペイン留学経験から、メキシコの母国語でもあるスペイン語も達者です。
言葉の壁に苦労せずとも、命を左右する医療制度の壁に衝撃を受け、密着取材の体験を映像化。
アメリカ合衆国のユタ州で開催されるサンダンス映画祭にて、米国ドキュメンタリー特別審査員賞にも輝きました。
営利目的の救急救命活動で日銭を稼ぐ一家を通して、メキシコ社会とその問題点を露わにしたドキュメンタリー映画 が【ミッドナイト・ファミリー】です。
配給元であるMadeGood.Films様のHPからも、作品視聴が可能です↓
MadeGood.Films | 映画配給 様のTwitterはこちら↓
映画【ミッドナイト・ファミリー】基本情報
ミッドナイト・ファミリー | 2019年 メキシコ・アメリカ映画 |
ジャンル | ドキュメンタリー |
監督・脚本 | ルーク・ローレンツェン |
上映時間 | 81分 |
出演 | ホアン・オチョア、フェル・オチョア、ホセ・オチョア、マヌエル・エルナンデス他 |
動画配信サービス | Amazonプライムビデオ(レンタル作品) |
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【ミッドナイト・ファミリー】民間の救急救命という闇ビジネス
映画の始まりは、救急隊員の服に身を包むホアン・オチョアの様子から。
彼は父フェルと9歳の弟ホセ、救命士マヌエルと共に、救急救命活動を行う17歳になったばかりの青年です。
- この晩も交差点事故で4名の患者を救急搬送
- 他の救急車が到着せず、救命にてんてこまい
- 結果1名が助からず亡くなってしまった
- …という出来事を、電話越しに彼女とおしゃべり
ケガ人4名に救急車1台はムリて。
…言い方は悪いが、運がなかったとしか言いようがない。
国土は日本の5倍、総人口は日本と同じ約1億3,000万人のメキシコ合衆国。
ホアンをはじめ、オチョア一家が活動を続ける首都メキシコシティは、東京都の7割の面積に23区民と同じ900万人が暮らす人口過密都市です。
しかも鉄道などの公共交通機関が比較的少なく、10人に3人が自家用車を持つ車大国。
運転免許は18歳以上からですが、仮カードなる仮免許が発行された場合は15歳から運転できます。
- 路駐で溢れかえるほど車があるのに、公営の救急車が45台ほどしかない
- おかげで呼んでも到着が遅い、待っても来ないが当たり前
- そうは言っても必要不可欠。民間の救急搬送ビジネスで成り立ってる
- オチョア一家も中古の救急車を購入し、救急救命で日銭を稼ぐ日々
日銭を…稼ぐ?
…救急車で病院に行くの、タダじゃないんだよ。
日本なら、呼んで乗って病院送りになるなんざ当たり前すぎるほど当たり前。
救急車両や設備の維持費・ガソリン代・人件費は税金で賄っているので、利用無料というのも当たり前。
しかしメキシコでは同じように無料の公営救急車が少ないため、営利目的の私営救急車が市民の「いざ」というときの頼みの綱となっているのです。
つまり自腹で救急車を購入してまで人命救助にあたるオチョア一家は、いわば尊くてありがたい存在。
…ですが、実は彼らの活動は違法行為にあたります。
- 救急搬送業務には、タクシー業務のように許可証がいる
- ただし許可証を発行してもらうには、それなりのお金が必要
- オチョア一家の1回の急患搬送料金は3800ペソ(およそ8,500円)
- …だが、料金を支払わない人・支払えない人がいる
- さらに違法搬送を見逃す代わりに警察が賄賂を要求
働けど働けど、オチョア一家の暮らし楽にならざり!
…確定収入じゃない上に賄賂だもんな。そりゃ許可証のお金もないさ。
患者によっては、たとえ自分が血塗れだろうが、まず心配するのが救急搬送にかかる料金。
オチョア一家も鬼じゃないので、支払えないという人から無理に料金を徴収することなどできるはずもなく。
それゆえ常に貧乏、ろくなご飯にもありつけず、スナック菓子で空腹をごまかす日だって数知れず。
それでも日々、どこかで誰かが救急を必要としているため、彼らは日夜奔走しているのです。
営利目的の人名救助は、善か悪か
来るかも分からん公営よりも、素早く駆けつけてくれる私営。
オチョア一家のように中古車を購入し、許可証を持たずに搬送業務に就く人々は、他にもたくさんいらっしゃいます。
ときに同業を出し抜くために、救急車でカーチェイスしたり。
ときに同業と休憩中に情報交換したり。
彼らの業務は行政より、市民の生活に根付いていることは確かです。
- それでも無許可で違法行為には変わりない
- そもそもオチョア一家は医療専門家でもない
- …が、応急処置も搬送業務も、手際良く的確
- それに救命士の資格を持つマヌエルと組んでいるので大丈夫
- でも警察に当たりハズレがあり、患者を搬送させてもらえないことも
警察なんなの。命かかってるのに足止め!?
…警察の腐敗もメキシコの大きな問題なんだよな。
例えば日本の警察は、法と正義を行使する聖職です。
事件化しなければ動いてくれない、という面もありますが、警察が民間人を脅してどうの…ということはありませんよね。
一方のメキシコは連邦警察なら法と正義を行使してくれますが、郊外に外れただけで問題のある警察も。
なぜなら就職できなかった人が、「仕方なく」つく仕事が警察だから。
- なりたくてなった訳ではないから、警察もやっつけ仕事
- 真面目にやってらんねー、と賄賂わいろワイロを要求する者が続出
- とはいえ不正ばかりでもない。救助活動のサポートと設備改善指導もする
- 結局オチョア一家のような民間人は警察に従うしかない
- とにかく1件でも多く現場に急行、搬送費用を稼ぐのみ
そもそもなんで、公営救急車が少ないの。
…そこはまた、医療事情が関わってくるかな。
メキシコの医療レベルは、決して低いわけではありません。
むしろメキシコシティのような都市部の私立病院は、日本やアメリカと遜色ないほど技術も設備も充実。
ただし公立病院は、機材や設備の老朽化・医療品不足という問題を抱えています。
- 国の豊かさを示すGDP(国民総生産)が、日本の約1/5
- 気候も温暖で生産性もあるが、経済格差がひどい
- お金に困ってる貧困層が多く、安い公立病院に患者が殺到
- とはいえ医療費は総じて高額。病院に行けない患者も
- 実はメキシコには、薬局チェーンに簡易的な医療相談窓口がある
随分とユニークな医療サービスがあるんだ。
…薬でどうにかなるなら、まず薬局が定番なんだよ。
検査・薬代は別で、病院診察は1万円。
MRI検査は9万円、入院したなら1泊1室8万円。
集中治療室送りになろうもんなら、1泊15万円。
だからメキシコでは薬局で医療、安価で手に入るよう自社ブランドのジェネリック薬の開発も進んでいます。
- 病人は悪くなる前に自分で薬局行け
- 薬局でダメなら自分で病院へ行け
- つまり、救急搬送しなくてもどうにかなる
- ゆえに、公営の救急車が極端に少ない
いや、ちょっと待ってよ。病人はそれでなんとかなるけど。
…ケガ人、特に重傷者はそうはいかないよな。
10人に3人は自家用車を持っているメキシコ。
個人で病院に行くのは簡単かもしれませんが、車社会というだけあって交通事故は日常茶飯事です。
オチョア一家の活動を見ると、事故搬送の多さに気付きます。
- 行政は、病人に対する医療体制しか整えていない
- ケガ人・重傷患者のための救急車の重要性を理解していない
- だから民間の闇ビジネスで穴埋めするしかない
- オチョア一家の活動は、違法といえど善行
- ただし手放しで歓迎できるものでもない
医療資格もないし、金取るし。
…必ず搬送しなきゃならない義務もないしな。
オチョア一家は無理に料金を徴収しませんが、支払い能力のない患者の搬送を断る同業もいるかもしれません。
また、支払えないから搬送拒否、という患者がいてもおかしくありません。
それに搬送中に亡くなる方だって、いることはいます。その責任は誰にあるのか、民間救急救命隊が背負うのか。
助からなかった場合でも、料金を少しでも下さいと遺族に頼み込むことさえあるのです。
行政の不完全な公営事業体制。
違法を黙認して賄賂を要求する警察。
救命の見返りに料金を請求するオチョア一家。
人ひとりの命を左右するのは、結局はお金です。
営利目的の彼らの活動は、果たして善なのか悪なのか。
監督が映し出すのはオチョア一家の日々の活動のみですが、そこに見え隠れするメキシコの問題を解説いたしました。
あなたはこの映画を見て、何を感じどう思いますか?
と語り合いたくなるような、一度は観ていただきたい傑作です。
【ミッドナイト・ファミリー】密着取材した一家の皆さん
メキシコの首都、メキシコシティの深刻な医療事情。
今作はドキュメンタリーということで、登場する方たちもご本人です。
必要とあらばすぐに駆けつける、オチョア一家の皆さんをご紹介いたします。
フェル・オチョアは、救急救命隊として活動するオチョア家の父。
中古で赤い救急車を購入し、真面目に頑張る穏やかな人物です。
血圧系の病気があるのか、たびたび薬を服用。
メキシコでは病人は病院じゃなく、薬局の薬でどうにかしている現状が伺えます。
ホアン・オチョアは、救急救命隊として活動するオチョア家の長男。
15歳から運転できる仮カード免許持ち、見事なハンドルさばきで救急車の安全運転もこなします。
17歳といえば遊びたい盛りだろうに、救命処置や書類整理、収入管理なんかもお茶の子さいさい。
考え方がとてもしっかりしていて、彼の一言一句にはハッとさせられるかと。
ヘアセットを欠かさない若者らしさにも、是非ご注目を。
いや、めっちゃイケメンやん(笑)
ホセ・オチョアは、救急救命隊の活動について行くオチョア家の次男。
学校行くより救急車乗りたい、ちょいポチャで無邪気で癒しの存在です。
9歳ということで見てるだけですが、収入は毎度きっちり4等分。
ちゃんと洗車もお手伝いしているので、立派な救急隊員ですね。
金銭感覚もしっかりしていて、オチョア家の中で1番お金を持ってます(笑)
マヌエル・エルナンデスは、オチョア一家と活動する救急救命士。
唯一の有資格者ですが、ホアンも救助知識があるので1人で大変ということはなさそうです。
子供たちとも戯れ合ういい関係を築いていて、見ていてちょっと和みます。
…と、この他に、警察や救急患者の方々などが登場。
機能不全の行政や、根深い汚職のとばっちりを受けるのは、いつでも市民であることを痛感するドキュメンタリー作品 となっております。
【ミッドナイト・ファミリー】感想まとめ
ドキュメンタリーは、あくまで撮影者目線で映し出される現実の投影。
…ですが、今作は絶妙なカメラワークが醸し出す、疾走感と臨場感が見どころのひとつです。
- メキシコの首都メキシコシティには、公営救急車が45台未満
- 圧倒的な不足分は、民間救急車という闇ビジネスで成り立ってる
- 営利目的のオチョア一家の活動に密着
- メキシコの様々な問題が浮き彫りに
日本では考えられない救急車ビジネス。
…と、思いの外ダメすぎる行政や警察の腐敗。
まず内容にひどく衝撃を受けますが、余計なBGMやナレーションがないのでドキュメンタリーの堅さを感じません。
監督の体験ではあるものの、その場で目撃しているかのような錯覚に陥るかと思います。
加えて、これが現実ということを、一瞬忘れそうになる映像美が本当に美しい。
メキシコに行ったことはないんですが、個人的に少し思い入れがありまして。
私の母校である都立高校の目と鼻の先にメキシコ大使館があり、在学中に在校生代表10数名が招待され、お邪魔したことがあります。
実は大使館はそう簡単に見学に行ける場所ではなく、一般参加イベントもしくは招待のみが中に入れるチャンス。
貴重な体験をしたと同時に、とてもフレンドリーな大使館の皆さんに感動した記憶が。
徒歩通学だったので、卒業後も道端で声をかけてくださることもあり、メキシコには良い印象しかないんですよね。
ところが今作を見て、命に関わる現状を知って、本当に驚きました。
オチョア一家の活躍は、是非を問うまでもない善。
でも、救急搬送で命の対価を請求することは、悪に見えてしまう不思議。
医者が治療を施して料金が発生するのは当たり前なのに、です。
国が違えば制度も違う。
日本の常識が世界の常識ではなく、誰かの常識も万人の常識ではない。
…などなど色々と考えさせられましたが、一つ言えることは「メキシコの救急医療事情が改善しますように」です。
映画【ミッドナイト・ファミリー】は、自分の倫理観が揺らぐほど、複雑な問題を強く訴えかけるドキュメンタリー作品 でした。
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