映画【バスケットケース】は、’80年代のカルトホラーブームで話題となったミッドナイトムービー。
いわゆる低予算のB級映画、深夜上映の形態で公開されるやいなや、爆発的人気となったマニアックな作品です。
異様なムード・チープな作り・インパクト大のキャラクター。
今観てもその衝撃度は抜群です。
のちにシリーズ化もされた傑作カルトホラー映画【バスケットケース】シリーズ3作品についてお届けします。
この記事で分かること
- 映画【バスケットケース】3作品のあらすじ概要
- 予告動画・DVDブルーレイ情報
- シャム双生児についてザックリ解説
- F・ヘネンロッター監督の後日談
バスケットケース (1982)
映画【バスケットケース】は、身体も心も繋がった、シャム双生児兄弟の悲痛な運命を描いたシリーズ第1作目。
ショッキングなお話ですが、怖いだけではないビジュアルと演出が見どころです。
- ある晩、1人の医師が惨殺された
- その頃、大きなバスケットを持った青年ドゥエインがホテルへ
- 彼は部屋に入るとバスケットに話しかけ、ハンバーガーの肉を投げ入れた
- 中からはムシャムシャ咀嚼音。実は兄ベリアルが入ってる
- 生まれた時、ドゥエインの腰に「兄のようなもの」が結合してた
- 医師はバケモノじみた見た目の兄ベリアルを切除
- しかも術後の処置をすることなくゴミとして廃棄
- 扱いの酷さに激怒した兄弟は、医師らに復讐することに
弟ドゥエインは脇腹に大きな傷があるだけの健常者、一方、兄ベリアルは頭部に両腕が生えただけの奇形容姿。
なかなかのクリーチャーっぷりでグロいんですが、動きが雑すぎて可愛くすら見えてきます。
しかもいろんな意味で肉食、単なるエロ脳という(笑)
一卵性なので兄弟間の考えはテレパシーで筒抜け、見た目普通な弟が女の子とイチャつくと、激しく嫉妬して兄ちゃん大暴れ。
生き様は確かに悲劇、連続殺人を犯すホラーだけど、笑いとツッコミどころも満載な傑作です。
バスケットケース2 (1990)
映画【バスケットケース2】は、8年ぶりに製作されたシリーズ第2作目。
前作の結末を引き継いだ、兄弟の後日談です。
- 兄ベリアルと弟ドゥエインは、転落事故で九死に一生を得た
- 病院で目覚めた2人だが、兄は鎖に繋がれバケモノ扱い
- 兄ベリアルは怪力で鎖を引きちぎり、弟ドゥエインが兄ちゃん担いで脱走
- すると兄弟の叔母の知人という高齢女性が声をかけてきた
- 彼女はルースと名乗り、異形の者を屋敷で匿い養っているとのこと
- 兄弟は彼女の屋敷で暮らすことになり、運命的な出会いが
弟ドゥエインはルースの孫娘と恋に落ち、兄も同じ容姿のイブとラブラブに。
ただ、ようやく掴んだ束の間の幸せも、そう長くは続きません。
マスゴミがルースの屋敷を突き止めて、執拗に追ってきます。
兄弟は自分たちのためにも、屋敷で暮らす異形の者たちのためにも、侵入者を惨殺。
ちゃんとグロな見せ場がありますが、なんと兄弟双方のニャホシーンも。
…誰がクリーチャーのえっちぃを観たいんじゃ。脚本も手掛けたヘネンロッター監督が、只者ではなさすぎて神々しいです(笑)
次作への伏線・度肝を抜かれるクライマックスに、驚愕すること間違いなし!な作品。
バスケットケース3 (1992)
映画【バスケットケース3】は、前作から2年後の兄弟を描いたシリーズ完結作。
あれからルースの屋敷で暮らし続けた兄弟が、新たな惨事に巻き込まれるお話です。
- 精神を病んだ弟ドゥエインは、拘束具を着て独房のような部屋で生活
- 一方の兄ベリアルは、愛するイブとの間に子を授かった
- 異形の出産は難産が予想され、ルースの知人を頼ることに
- 拘束具姿の弟も含め、バスでハルおじさんの家へ
- そこにはルースの異形の息子、リトル・ハルの姿が
- みんなで協力しつつ、イブは無事12人の赤子を産んだ
- 異形ばかりの中で疎外感を感じた弟が、ハルおじさんの家から逃走
- 途中で可愛い女子と出逢うも留置所行きに
- 女子の父親は保安官。同僚たちが異形で一儲け企んだ
どこへ行っても好奇の目に晒される異形の者たち。
保安官らはイブを射殺、産まれたばかりのベリアルベビーを強奪し、新しいおもちゃのように扱います。
流れ弾に当たった兄ベリアルは、治療ついでにロボット改造、奴らを血祭りに。
…誰が予想出来たであろう、兄ベリアルのロボット化(笑)
という面白展開の中、これまで差別や偏見で辛い人生を歩んだ異形の者たちが、堂々と生きる権利を獲得していきます。
感動的なフィナーレを迎えるけれど、遊び心も忘れないカルト傑作の完結編。
[解説]シャム双生児って?
引用 : commons wikimedia
映画【バスケットケース】に登場する兄弟は、もともとひとつの身体だったシャム双生児。
シャム双生児とは、身体の一部がくっ付いた状態で生まれた一卵性双生児のこと、正式名称は「結合双生児」です。
一般的に一卵性双生児は、母胎内で2つに分かれた受精卵がそれぞれ細胞分裂を繰り返し、2人の胎児として生まれます。
…が、何らかの異常で受精卵の2分割が遅れ、不十分なまま細胞分裂・胎児の形成段階へ。
その結果、頭部・胸部・骨盤部位などが結合、ときに臓器も共有という状態で生まれる奇形児が、今作シリーズの主人公兄弟です。
映画用に考えた、とんでもない設定…ではなく、結合双生児は実在の胎児奇形変異。
同性以外や3人以上の一卵性では結合が確認されていない、という大きな特徴があります。
- 出生確率は5万〜20万に一組ほど
- 原因は、遺伝子の発現異常やダイオキシン類の影響など
- 治療は2人の結合部位を分離する外科手術のみ
- ただし分離可能なのは、生命維持に重要な臓器が共有していない場合
- 分離しても生きられない、ヒトの形を成さない場合もある
- 分離手術せず、結合したまま成長した例も
シャム双生児という表現は、結合双生児の中で最長寿、62歳で亡くなったチャン&エンのブンカー兄弟に由来します。
お二人は1811年にシャム(現在のタイ)で生まれ、1829年に彼らを発見したイギリス人に引き取られました。
その後、珍しい奇形であることからサーカスの見世物として巡業、そのときの芸名が「シャム人の双子(The Siamese Twins)。
分離外科手術を受けることなく、2人でひとつの身体を共有し続けたお姿がこちらです↓
引用 : wikipedia
兄のチャンが気管支炎で亡くなると、弟のエンにも身体の不調があらわれ、後を追うように約3時間後に息を引き取りました。
ブンカー兄弟は、結合したままでも長く生きられる希望であり象徴だったことから、「シャム双生児」の表現が使われるように。
珍しい症例ではありますが、1981年ベトナム人の結合双生児ベトちゃんドクちゃんが来日、1988年に日本で分離手術に成功しています。
日本人には居ないの?
というと、2001年に沖縄で結合双生児が誕生した記録があります。
共有部位はお腹・共有臓器は肝臓のみ。
その他の臓器は完全に独立していたため、生まれて2ヶ月後に分離手術を受けて2週間後には退院。
双子ちゃんは、家族の支えと愛情をたっぷり受けて、すくすくと成長しているそうです。
結合双生児は、産まれる前に決定された奇形。
産むか産まないか、産んだら分離するのかは、ご両親の意向や医師の判断に委ねられます。
もちろん本人たちの意見を聞く場合もありますが、もし意思を尊重されなかったら。
もし片方が不完全でヒトに見えなかったら。
…という設定で、ごく稀な結合双生児の存在をクリーチャーホラーにした映画【バスケットケース】は、間違いなく現代では製作不可能。
倫理的に、おそらくアウトでしょう。
ただそれは、身体的特徴に偏見を持たない・差別しない、という思想が定着した証拠でもあるのかなと。
映画のテーマはひどく繊細ですが、人体の神秘と人間の腹黒さを真っ直ぐ描いている点が、傑作と言われる由縁かと思います。
F・ヘネンロッター監督の憂鬱
さて。繊細で奥深く、でも笑いとツッコミでエンタメに昇華させてある映画【バスケットケース】シリーズ3作品。
脚本も手掛け、カルト映画の傑作を生み出したのは、2021年現在でも現役の映画監督、御歳71歳のフランク・ヘネンロッター氏です。
他にどんな監督脚本作品があるのかな…と思ったら、なんと7本しか発表しておりません。
どれもコアなファンに人気、DVDにけっこうなお値段がついているものもあります。
F・ヘネンロッター監督作一覧↓
公開年 | 作品タイトル | DVDブルーレイ |
1982 | バスケットケース | |
1987 | ブレインダメージ | |
1990 | バスケットケース2 | |
1990 | フランケンフッカー | |
1992 | バスケットケース3 | |
2008 | バッド・バイオロジー | |
2010 | ゴッドファーザー・オブ・ゴア |
数少ない中から監督の代表作、カルト映画の傑作と言われる【バスケットケース】の続編は、嫌々ながら撮ったそうで(笑)
そもそも1982年の【バスケットケース】は、資金援助なし・ただ映画が撮りたかったという理由で作った作品でした。
- 安上がりホラーはNY42丁目劇場街で需要がある
- 手元の資金は3万5千ドル(=約350万円くらい)
- 脚本的に資金不足だが、どうせ誰も観ないだろう
- …と軽く考えていたら、深夜上映で長蛇の列
- 2年間ずっと上映中の劇場まであった
作品が大ヒットしたならば、普通は大変喜ばしいことです。
…が、ヘネンロッター監督は、「どうせ誰も観ない」前提で、映画作りを楽しむだけのつもりで製作。
その気楽さが良かったのに、カルト映画認定されて憂鬱、正直悲痛な声を上げたと語っております。
なので期待されまくった続編は、本当は作るつもりがなかったと。
そう言いながらシリーズ3作品とも傑作にしちゃってるので、ヘネンロッター監督、恐るべし。
ちなみに【バスケットケース3】を撮るのは《ブードゥー・ドール》を撮るためだ、と発言していたそうですが、《ブードゥー・ドール》は未だ製作されておりません。
これはもう、撮る撮る詐欺ですね(笑)
新作を発表してくれるのを、首を長くして待ちたいと思います。
…ということで、カルトホラー映画の傑作【バスケットケース】シリーズ3作品についてお届けしました。
1980年代と古い映画ですが、アメリカでは未だにミッドナイトムービーとして、定期的にロングラン上映されるほどの人気作。
夜中に観ると無駄にテンション上がる系、ポップコーン片手にジワる恐怖と笑いを楽しんでいただけたら、恐悦至極にございます。
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