卓越した描写力で見るものを圧倒する、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎。
その才能を色濃く受け継いだ北斎の娘・お栄もまた、『葛飾応為』として名を馳せた江戸末期を代表する浮世絵師です。
まだ若かりし頃のお栄の日常を描いた長編アニメ映画【百日紅 Miss HOKUSAI】の世界へとご案内いたします。
この記事で分かること
- あらすじ概要・声優キャスト
- 予告動画・DVDブルーレイ情報
※あらすじは、ほぼネタバレとなっております。
未鑑賞の場合はご注意ください。
【百日紅 Miss HOKUSAI】江戸末期の浮世絵師
波どっぱーーん!
葛飾北斎の浮世絵って迫力あるよな。
映画【百日紅 Miss HOKUSAI】は、世界的にも有名な浮世絵師・葛飾北斎とその娘の日常を描いたアニメ映画。
漫画家であり江戸風俗研究家であり、エッセイストでもある杉浦日向子さんの漫画「百日紅」が原作の人情群像劇です。
ちなみに。
「百日紅」は「ひゃくにちべに」ではなく「さるすべり」と読む、濃いピンク色の花を咲かせる落葉中高木のこと。
花が咲いて散ってまた咲いて…という、1年間の日常を切り取った様をあらわしています。
- クレヨンしんちゃんシリーズでお馴染みの原恵一監督作
- アヌシー国際アニメーション映画祭にて審査員賞を受賞
- アヌシー映画祭とは、元カンヌ国際映画祭のアニメーション部門
- つまり世界最大のアニメーション映画祭で大絶賛された秀作
江戸風情と浮世絵芸術が融合した今作は、海外で軒並み高評価。
映画祭で受賞した審査員賞は、グランプリに次ぐ名誉ある賞です。
日本での評価は?…というと、こんな感じ↓
- Filmarks : 3.4/5
- Amazon prime video : 4/5
- Yahoo : 3.4/5
少し展開が単調なのと、思ったほど浮世絵が拝めないあたりは物足りなさを感じるかも。
ただ、名のある浮世絵師だった北斎の娘に焦点をあてた物語は、他にはない作風かと思います。
まだ嫁入り前、うら若き乙女が歴史に名を残す絵師になるまでを描いたアニメ映画 が【百日紅 Miss HOKUSAI】です。
世界的にも有名な浮世絵師、葛飾北斎と葛飾応為の作品についてもお届けしております。
ゴッソリと解説付き。あわせてどうぞ↓
映画【百日紅 Miss HOKUSAI】基本情報
百日紅 Miss HOKUSAI | 2015年 日本映画 |
ジャンル | 長編アニメ・浮世絵ンターテイメント |
監督 | 原 恵一 |
脚本 | 丸尾みほ |
上映時間 | 90分 |
声の出演 | 杏、松重豊、濱田岳、高良健吾ほか |
動画配信サービス | Amazonプライムビデオ(レンタル作品) |
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【百日紅 Miss HOKUSAI】父娘そろって稀代の絵師
時は文化11年(1814)、江戸の下町。
隅田川に架かる両国橋で、人の往来を眺める一人のおなごがおりました。
- 彼女の名はお栄。父はヘンチキな画家で北斎という
- 例えば北斎は120畳敷きの紙にダルマを描いたり
- かと思えば米粒にスズメ2羽を描いたり
- そんな父・北斎を母・ことが心配中
葛飾北斎ってこんな自由人だったんだ。
…北斎の素顔が知れるところも今作の見どころだな。
浮世絵だけでなく、挿絵画家としても活躍していた北斎。
ただここ最近はめっきり仕事も減ってしまい、さて大丈夫かという話に。
- 北斎は今、本家を離れて長屋のアトリエで生活中
- 弟子の池田善次郎も同居しているが、いかんせん善次郎は絵が下手くそ
- お栄は母・ことに、いっそ自分も同居しようかと進言
- 北斎とお栄、2人の筆2本と箸4膳があれば食っていける
お栄も絵を描くの?
…北斎をも凌駕するほど、絵の才能に長けてる。
父・北斎のこと、生まれつき目が見えない妹・お猶のこと。
母とそんな話をしていたお栄は、本家の庭の木を眺めてこんなことを呟きます。
「百日紅が咲いたね。ワサワサと散り、モリモリと咲く…か。」
鮮やかな彩りの百日紅の花が咲いた夏の頃。
お栄は母に告げた通り、北斎の長屋に移り住むことにしたのです。
- 北斎もお栄も、料理はしないし掃除もしない
- おかげで長屋は描き損じた絵の紙クズでいっぱい
- 北斎曰く「ゴミが溜まれば引っ越しすりゃあいい」
- …ということで、2人はただただ絵を描き続ける日々
部屋が汚くなったら引っ越しって。
…実際、葛飾北斎は生涯で93回も引っ越ししてるんだよ。
絵を描くことしか興味がない。
酒もタバコもやらないし、まぁ枕絵は描くから女は好きらしい。
娘・お栄の目に映る北斎は、たしかにヘンチキな画家でした。
- そんな北斎は今、依頼で龍の絵をカキカキ中
- あとは画号のサインをしたためれば一丁あがり
- …という瀬戸際で、お栄がキセルの火種を絵にポロり
- 龍の首元が焼け焦げて、依頼の絵が台無しに
あー…。見事な一龍の墨絵が(泣)
…仕方ないから、お栄が描き直すことになったよ。
依頼の絵の締め切りは明日まで。
ここで一心不乱に描き直すほど、北斎は真面目な絵描きではありません。
- ちょうどその頃、もう一人の同居人・池田善次郎が帰宅
- しかも酔っ払って客人まで連れてきた
- 客人は歌川一門の若き絵師・歌川国直
- 国直は北斎の大ファンで、ついでにお栄にもちょっと気があるっぽい
- あとは任せたと、北斎は善次郎と国直と呑みに行っちゃった
お栄さん、描き直せるの?明日までに。
…国直がいいアドバイスをくれたから、長屋で紙と睨めっこだ。
歌川国直は、役者絵や美人画で人気急上昇中の浮世絵師。
その実力は相当なもので、お栄も国直が只者ではないことはよく知っておりました。
そんな国直が言うことには、「龍は筆で書くのではなく下りてきた龍を筆で閉じ込める」だそうで。
なんのこっちゃなアドバイスですが、お栄はただひたすら紙に向かい、龍が舞い降りるのを待ち続けます。
雲行きが怪しくなり、次第に荒れはじめたこの晩の夜半すぎ。
お栄は降りてきたものをしかと筆に閉じ込めて、見事な龍を描き上げたのです。
お栄の才能と未熟なもの
龍の墨絵の一件からか、お栄はときどき北斎の絵を手伝うようになっていきます。
それは北斎の絵に寄せた、北斎っぽい浮世絵。
絵こそ似てはいたものの、お栄と北斎には家族に対する大きな違いがありました。
- お栄は絵だけでなく、妹・お猶のこともすごく大事
- 盲目で尼寺に預けられているお猶を誘い、ちょくちょく一緒にお出掛け
- まだ幼いお猶は、両親に迷惑かけてるから地獄に行くと思ってる
- そんな健気なお猶のことを、父・北斎はちょっと避けてる
お猶ちゃん、橋の賑わいの音が好きなんだ。
…目が見えないけど、感受性も感性もずば抜けてる良い子なんだよね。
それでも北斎がお猶に会いに行くことは、まずありません。
それはきっと、病気が怖い意気地なしだから。
北斎のことを本名の「鉄蔵」呼ばわりする気の強いお栄にとって、父は腑抜けな男でもありました。
- そんなある日、お栄は善次郎の枕絵の下絵を発見
- 顔と身体のバランスがちぐはぐで、善次郎の絵は気持ち悪い
- お栄は自分ならもっと上手く枕絵も描けると豪語
- そんなお栄に吉原の花魁から美人画の依頼が
- ただその花魁には首が伸びるという噂が
ろくろっ首の妖怪だー!
…北斎も善次郎もそれが気になって、吉原について行ったよ。
吉原の桔梗屋の花魁・小夜衣。
お栄が何枚か下絵を描き終えたところで、北斎と善次郎が首の話を持ち出します。
- 小夜衣は見せ物小屋じゃないとブチ切れ
- 追い返されそうになり、北斎が自分語りをちょっと
- それを聞いた小夜衣は、鈴が鳴ったら隣の部屋へとひとこと
- 鈴の音に誘われて部屋に入ると…小夜衣の顔が霊体のように伸びていた
うぉー。怪異だ怪異!
…善次郎だけは見えなかったようだが。
感性が鋭い者にしか見えない怪異。
お栄はこの怪異目撃以降、ますます絵の才能を開花させていきます。
- とはいえ、絵ばかりじゃないのがお栄の良いところ
- 江戸の町にも雪が降り、またお猶とお出掛けすることに
- すると近所の男の子がやって来て、お猶に雪玉を見せた
- …が、目が見えないことを悟り、音を立ててお猶と遊んでくれた
この男の子、むっちゃ良いヤツ!
…お猶ちゃんも楽しそうで、お栄も嬉しそうだね。
相変わらず北斎はお猶に会いには来ないけれど、その分たくさんのことを教えてきたお栄。
妹想いで生真面目なその性格は、次第に描く絵にも現れるようになっていきます。
- 近頃は、お栄に絵を…と依頼する者も
- ところがあるお屋敷で、お栄の描いた地獄絵による怪異が
- 奥座敷に飾ったその絵を見て、屋敷の奥方が病気に
- 絵から声が聞こえ、亡者の幻影まで見えるらしい
- 屋敷の主人としては、お気に入りなので手放したくない
- …が、奥方がボヤ騒ぎまで起こし、どうしたもんだという話に
そんなに怖いの?その地獄絵。
…リアルに綺麗に描くのが、お栄の持ち味でもあるんだ。
閻魔大王がいて鬼がいて。
地獄に落ちて舌を抜かれた人間は、釜茹や針山へ。
お栄の描いた地獄絵は、確かに見る者を畏怖させる凄みがありました。
そうは言っても所詮は絵。声が聞こえるはずも亡者が出てくるはずもありません。
- 裏事情を知った北斎は、お栄の地獄絵の下書きを確認
- この厄介ごとは、絵が未熟な証拠だと一蹴
- お栄とともに屋敷を訪れた北斎は、件の絵をちょっとお直し
- それ以来、絵に悩まされることがなくなった
怪異が消えたの?何したの。
…菩薩様を描き足したんだよ。
お栄の絵は、描いたら描きっぱなしだから始末が悪い。
リアルでよく出来た地獄絵だけれど、そこに一切の救いがないから厄介を起こすんだ。
…そう北斎に未熟さを指摘されたお栄は、さらに絵を扱う版元からもダメ出しを喰らってしまいます。
だからといって、お栄はこんなことで凹むようなタマではありません。
自分に足りないものを補う努力を惜しまず、何枚も何日も絵を描き続けます。
そんな日々が続いたある日のこと。
具合を悪くした妹のお猶が、尼寺から本家へと戻ってくることになりました。
お栄は暇さえあればお猶に会いに行き、これまで一度も顔を見せなかった北斎も本家へ。
ほんのひとときをお猶と過ごした北斎は、長屋に帰ったその晩に朱で1枚の魔除け絵を描き上げます。
それは病魔をくじく大きな剣と、病を癒す手を持った武神の絵。
北斎の無骨な愛情がこもった力強い絵でしたが、お猶の具合が善くなることはなく。
まるでお猶の死を知らせるかのように、長屋に突風が吹いて一輪の百日紅の花が舞い落ちました。
家族が亡くなり悲しみに耽っても、時が過ぎれば否応なしにまた日常がやってきます。
お栄は再び筆を取り、周囲の助言もあって「自分の絵」を描いてみることに。
描いては丸め、描いては丸め。
行き詰まったお栄を見た北斎は、ボソッとこんなことを呟きます。
「好きなものを好きに描いたらいい」
そうしてお栄が描き上げたのは、金魚の入った桶を覗き込む幼い少女と百日紅の花。
お栄はこの日を境に北斎の代筆画家ではなく、一人前の浮世絵師となっていき…というのがあらすじになります。
【百日紅 Miss HOKUSAI】実在する登場人物たち
たまーに絵を描く葛飾親子。
…とその周りにいる人々との、ユルい日常人情ドラマ。
江戸の世界を生きた個性あふれる登場人物たちをご紹介いたしましょう。
お栄は、葛飾北斎と後妻との間に生まれた三女。
北斎の絵の才能をガッツリ受け継いだ、「葛飾応為」という実在人物です。
絵を描くこと・妹とお出掛けすること・火事場見物が大好きな23歳。
北斎の高弟・岩窪初五郎に恋心を抱く乙女な一面がありますが、気が強くてサバサバし過ぎな性格です。
葛飾北斎は、言わずと知れた江戸の人気絵師。
依頼通りに絵を描かないことがあり、たびたび版元や依頼主と衝突するひねくれ者です。
代筆を丸投げするほどお栄の画才を認め、多くを語らずとも才能を引き伸ばす手腕はあっぱれ。
北斎の人柄は描かれていますが、北斎の浮世絵が描かれてないことが今作のマイナスポイントと言えます。
池田善次郎は、北斎の長屋に居候する浮世絵師見習い。
江戸屋敷で侍奉公→喧嘩沙汰でクビ。
父親のツテで狂言作者見習い→両親が急死して妹3人を養うために頓挫。
…という経歴の後、絵師を目指した23歳の青年です。
絵は決して上手くはありませんでしたが、無類の女好きが功を奏して春画で有名に。
妖艶な美人画絵師・渓斎 英泉(けいさい えいせん)という実在人物です。
歌川国直は、北斎と対立する歌川豊国門下の若手売れっ子絵師。
若干19歳の若造ですが、絵の才能は目を見張るものが。
思い切りが良く飄々としていて、周囲に愛される性格の持ち主です。
…が、北斎宅に出入りするようになり、歌川一門の中では異端児扱いもされていた模様。
版本挿絵・錦絵・肉筆画を得意とする実在人物です。
岩窪初五郎は、北斎門下の売れっ子絵師。
美男子・誠実・34歳独身と、モテ男要素がある好人物です。
お栄も恋心を抱きますが、あえなく撃沈。
元お魚屋さんで、魚屋北渓(ととや ほっけい)の名で活躍した実在の浮世絵師です。
…と、この他に、お栄の母こと(美保純)、お栄の妹お猶(清水詩音)、花魁・小夜衣(麻生久美子)、男娼・吉弥(入野自由)などが登場。
北斎とその娘の視点から、江戸の日常を切り取ってみました感の作品 となっております。
【百日紅 Miss HOKUSAI】感想まとめ
父をも凌駕する才能を持った、葛飾北斎の娘・お栄。
彼女の日常の全てが、絵師として徐々に成長する糧でした。
- 父・北斎の代筆を丸投げされた、お栄(23)が主人公
- 類い稀なる画才はあるが、まだちょっと未熟者
- 怪異を見たり怪異を起こしたり。稀有な経験から才能が開花
- いつなんどきも「描く」ことに没頭。一人前の絵師に
今作は特に大きな見せ場もなく、まとまりもない小さなエピソードが散りばめられています。
ゆえに展開は地味、批判的な感想や評価もあるにはあります。
それでもお栄が葛飾応為になるまでの出来事、という1本筋が通ったお話です。
アニメだから描けた江戸の町風情、そこに加えられた季節感。
夏に咲く百日紅や雪だけでなく、長屋で飼い始めたワンコの成長からも時の経過が分かるようになっています。
実在する人物というリアリティを損なわないために、場所や季節感もきちんと魅せるリアリティ。
そのバランスが素晴らしく、北斎やお栄の暮らしぶりをしっかり感じることが出来るかと。
23歳で自分の絵を描き始めたお栄は、浮世絵界では珍しい陰影を用いた画風を確立したお方です。
日本のレンブラントとも言われ、「北斎の娘」ではなく「葛飾応為」として高く評価されています。
そんなお栄(葛飾応為)の描いた、1番有名な浮世絵がエンドロールに登場。
妖艶な吉原の情景を陰影豊かに描いた「吉原夜景図」は、ため息が出るほど素晴らしいのでお見逃しなく。
映画【百日紅 Miss HOKUSAI】は、実在した江戸の女流浮世絵師の日常を、江戸風情豊かに描いたアニメ作品 でした。
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