謎が謎を呼び、広く張り巡らされた伏線。
サスペンスやミステリーって、作家VS読者の深読み合戦、バトルのような気がしませんか?
「あーー!そういうことか」という結末を迎えたとき、なんだかすごく負けた気になります。
S・キング原作映画の中から、特に負けた気にはならない(かもしれない)サスペンス・ミステリー系4作品をお届けします。
シークレットウィンドウ(2004)
まずは主演がジョニデというだけで観てしまう映画【シークレットウィンドウ】から。
キングの中編小説《秘密の窓 秘密の庭》の映像化作品です。
現実と妄想の区別がつかなくなった男の末路がミステリアスに描かれています。
映画【シークレットウィンドウ】のあらすじ
妻の浮気現場に直面し、以来スランプに陥ってしまった人気作家。
今は別居し離婚調停を進めるも、一向に心は鎮まらず頭の中は常に悶々モンモン…。
そんなある日、彼の元に見知らぬ謎の男が訪ねてきます。
男は人気作家の書いた「シークレットウィンドウ」という小説が、元々自分の執筆作品だとイチャモンつけに乗り込んできたのです。
いやいやいや。書いたのオレだし…と、盗作なんて身に覚えがない人気作家。
しかし確かに男の置いていった「種を蒔く季節」という原稿は、彼の作品と瓜二つ。
ただし結末だけは異なり、妻を殺して庭に埋めるという物騒なオチでした。
以来たびたび姿を現しては、「おいおい、早く盗作を認めろよ」と因縁つける謎の男。
人気作家はこの因縁に辟易し、知人の探偵に身辺調査を依頼することに。
ところが探偵は殺害され、別居中の妻の家では放火事件が起こるなどキナ臭い展開になってしまいます。
謎の男は一体何者なのか。
物語を紡ぐのが仕事の作家が陥った、都合のいい解釈・自分目線の妄想が紐解かれるサスペンスミステリーです。
キャッチコピーは「なぜ追われる、なぜ終われない」映画【シークレットウィンドウ】↓
監督:デヴィッド・コープ
キャスト:ジョニー・デップ、ジョン・タートゥーロ、セリア・ベロ他
映画【シークレットウィンドウ】の見どころ
謎解き系のサスペンスミステリーって、謎が解けてこそスッキリ面白かったと思えるもの。
ああでもないこうでもないと考える必要もなく、スパーん!とエンディングを迎えるところがこの作品の見どころです。
- 実は多重人格だった…というありがちなネタ
- …とはいえ主人公の人気作家役がジョニデなので、それだけでも満足
- ジョニデの二つの人格の演じ分け・雰囲気の変わりように目を奪われる
- 要所要素でキングらしい描写の曖昧さ・余白・余韻も残しつつ、展開が分かりやすい
ある意味作家の職業病とも言える、妄想と現実の狭間で崩壊した精神。
心の奥底に秘められた深層心理が別人格を作り出して事件を起こす…という内容は、まぁよくある設定ではあります。
ただ、結末に繋がるまでの流れ・人気作家の成れの果てにはゾワっとくるものが。
実はキング作品はあんまり好きじゃないけど、ミステリー好き・ジョニデ好きの方におすすめの作品です。
ダークハーフ(1993)
映画【ダーク・ハーフ】は、アメリカのニュース誌パブリック・ウィークリーで1989年のベストセラー第2位に選ばれた同名小説の映像化作品。
キングは主人公に小説家を据える作品がいくつかあるんですが、この作品も作家モノのホラー。
たびたびタッグを組むロメロ監督がメガホンを握った、期待のスリラーミステリーです。
映画【ダークハーフ】のあらすじ
あまりパッとしない純文学小説家でもあるひとりの大学教授。二足のわらじを履く彼には、もうひとつ別の顔がありました。
それは血生臭い暴力的な犯罪小説で、ベストセラーをいくつも叩き出している超人気作家という顔。
純文学小説は売れないし、大学教授の仕事だって安月給の彼は、金儲けのために大衆ウケする暴力小説を書きまくっていたんです。
長年誰にも気付かれず、別ペンネームでガッポリ印税ウハウハ生活を送っていた大学教授。
ところがある日、こんな脅迫を受けてしまいます。
「真面目な純文学小説家の大学教授さんが、実は別ペンネームでごっつい犯罪小説をバンバン書いてただなんて。いいんスか?世間にバラしちゃいますよ?」
夢と憧れを持ってやり遂げたい純文学小説家の仕事。学生相手に教鞭を取る教授の仕事。
彼のもう一つの顔・犯罪小説家の仕事は、そのどちらをも脅かすほどバイオレンスに満ちた作品ばかりでした。
「どっかからリークされて叩かれるんなら、自分から暴露してしまおう」
そう思った大学教授は、自ら超ベストセラーな犯罪小説家であることをカミングアウト。
さらに犯罪小説家としてのペンネームも存在も、わざわざ墓を用意して葬り去るというパフォーマンスまでやってのけます。
おかげで純文学小説家としての顔が注目され、順風満帆…かと思いきや、彼の身の回りで物騒な事件が続発。
別ペンネームの存在を葬ったせいで始まった、悪夢のような出来事を解明するファンタジックなダークミステリーです。
実在するもう一人の自分。ダークファンタジー要素もある映画【ダークハーフ】↓
監督:ジョージ・A・ロメロ
キャスト:ティモシー・ハットン、エイミー・マディガン他
※現在動画配信サービスでの取り扱いがありません。
映画【ダークハーフ】の見どころ
大学教授というひとつの根から枝分かれした、光を浴びる自分と闇に葬られた自分。
キングの原作小説からだけでは世界観を推測しにくい部分を、ロメロ監督がインパクトある映像演出で補足しているあたりが見どころです。
- 産まれずに片方に吸収された双子がもう一人の自分の正体、という驚きのファンタジック設定
- さすがゾンビホラーの巨匠ロメロ監督と唸ってしまう、「脳の中のもう一人の眼」の映像がエグい
- 終盤でも、ヒッチコックの映画『鳥』ばりの圧巻の演出美がある
- なかなかのスリラーミステリーだが、犯罪小説家の顔になる主人公がリーゼント頭のツッパリ風情で笑える
- 怖さを癒しまくる双子の赤ちゃんが天使すぎて尊い
- 設定は奇異だが、若干説明不足で尻切れとんぼな終わり方でもある
原作小説では、もっとストーリーに複雑さがあります。
自分を超えるのは自分だけという教訓ぽさや、もう一人の自分を消し去ることへの葛藤・現実から逃れられない悲痛さのような心理描写など。
そもそもストーリーの奥深さが原作にかなわないのは映画の宿命。
この作品はそんな不足を埋めるかのように、映画ならではの映像演出・ロメロ監督の手腕が光る仕上がりかと思います。
多重人格ネタと見せかけて変化球ネタだった、というキングの想像力やロメロ監督の創造力を味わいたい方におすすめの作品です。
ニードフルシングス(1993)
映画【ニードフル・シングス】は、同名の中編小説の映像化作品。
タイトルは「必需品」という意味の英語です。
…が、必要不可欠な品に関するお話ではなく、何を差し置いても「コレむっちゃ欲しい!」という人間の欲深さと浅はかさが招く悲劇が描かれています。
映画【ニードフルシングス】のあらすじ
平和な街キャッスル・ロックに、ある日新しく骨董品店がグランドオープン。
明らかによそ者、謎めいた紳士的なオーナーが構えたこの店には、なぜか皆が必ずや欲しがる魅惑の骨董品の数々が並んでいます。
興味本位で入れ替わり立ち替わりその店を訪れては、「これぞまさにむちゃくちゃ欲しい必需品」に巡りあう住人たち。
骨董品店のオーナーは、そんな彼らにタダ同然で品を譲り、代わりにこんな取り引きを持ちかけます。
「ちょっとしたお願い事、イタズラをしてくれればお代は要りませんよ」
誰かのお宅の洗濯物を汚したり、窓からリンゴを投げ入れたり。
そんな程度で良いんなら…と、街のみんなは小さなイタズラを気軽に引き受け「これぞまさにむちゃくちゃ欲しい必需品」を手に入れます。
しかし住人たち各々の手で幾重にも積み重なった些細なイタズラは、やがて疑心暗鬼の心を芽生えさせることに。
平和な街の穏やかな日常の歯車は狂い始め、人間不信が募ってとうとう殺人事件まで起こってしまいます。
物欲をつついて人間を愚者に変え、ひとつの街を破綻に追い込む骨董品店のオーナーの正体とは一体…というオカルト系ミステリーです。
「ニードフルシングス(必需品)」を求める人の心と悪魔の心。映画【ニードフルシングス】↓
監督:フレイザー・クラーク・ヘストン
キャスト:マックス・フォン・シドー、エド・ハリス他
※現在動画配信サービスでの取り扱いがありません。
映画【ニードフルシングス】の見どころ
世の中から決してなくならない犯罪の一つに強盗がありますね。
でも人は、欲しくても我慢するときは我慢するという理性を持っています。
理性を巧みに操られ、弄ばれた心の隙間からのぞく醜い人間の性。
なぜみんなが少しづつ狂気に満ちていってしまうのか、という過程が1番ミステリアスでホラーな見せ場かと思います。
- S・キングの作品でよく出てくる地名キャッスル・ロックが舞台なので、無駄にテンションが上がる
- 街をカオスに陥れる老人が紳士過ぎてかえって怖い
- ネズミ講のような人間の悪意のスパイラルが恐ろしい
- 取捨選択の余地があり、惨劇を起こすのは結局は人間という本質にハッとさせられる
私はよく「悪魔の囁きが…」と、罪悪感を感じつつ夜中にポテチを食べることが。
ポテチがあるから食べたい欲望に負けるんじゃー!と言い訳して食い散らかしてますが、食べるという決断を下すこと、食べる行動を起こすのは結局は自分です。
この映画のストーリーの核は、極端にゆるく解釈するとそんな感覚に近いのかなと。
必需品がそこにあるから欲しいと願い、イタズラくらいならやっても良いと決断し、最後には物欲が優って他人の命を奪う行動に出るのは、それぞれ住人たちが自分で決めたこと。
なかなか奥が深く肝が冷えるお話なので、すごく面白いなと感じました。
私みたいについ言い訳して、物欲に負ける意志の弱い方におすすめの作品です(笑)
黙秘(1995)
映画【黙秘】は、キングが特別に書き下ろした小説《ドロレス・クレイボーン》の映像化作品です。
どの辺が特別?というと、あのキング原作映画の中でも有名な《ミザリー》主演、キャシー・ベイツのために書いたというところ。
普通のオバサンの熱狂的な狂気から一転、2つの事件の真相を握るミステリアスな女性の物語になっています。
映画【黙秘】のあらすじ
今はニューヨーク在住の女性ジャーナリスト。
彼女はある日、故郷であるメイン州の孤島で一人暮らしをしている母親ドロレス・クレイボーンが事件を起こし、逮捕されたことを知ります。
母親の容疑はなんと殺人。メイドとして働いていた大富豪の未亡人を殺害したというものでした。
いつからか母娘関係が悪化してはいたものの、女性ジャーナリストは故郷へと戻って母親の身元を引き受けることに。
数年ぶりの再会を喜ぶでもなく、彼女は母親から事件の真相を聞き出します。
しかし母親は無実を口にするだけで、その他に関しては一切黙秘。警察はおろか、実の娘にも何も真相を語ろうとしません。
実は母親には20年前にも殺人の容疑者となった過去があり、今回の事件とは深い関わりが。
女性ジャーナリストは母親が関与したらしき2つの事件を解き明かそうと真相に迫るうちに、事件の中枢には自分の存在が大きく関わっていた事実に辿り着きます。
母親が黙秘を続ける理由、2つの事件の真相、そしていつしか断絶していた母娘関係の真実と和解。
母親ドロレス・クレイボーンを中心に広がる謎が、全て解き明かされていくサスペンスミステリーです。
映画【黙秘】の見どころ
この作品の見どころは、なんといってもキャシー・ベイツの演技力。
映画《ミザリー》の怖すぎる普通のオバサンとは全く違う人物像を、見事に演じきっています。
- 2つの事件の真実とその繋がり方は、ありがちといえばありがちな設定
- …とはいえ、キャストの演技力や事件の交錯の仕方が興味深い
- 母親役キャシー・ベイツだけでなく、娘役ジェニファー・ジェイソン・リーの演技もすごい
- 女性の悲劇・女性の悲嘆・男性陣はロクデナシというはっきりとした構成で分かりやすい
- 浮き彫りになる人間模様とその結末に感動する
誰しも消し去りたい過去、忘れてしまいたい出来事、実際に忘れてしまっていることもあるかもしれません。
そんな黒歴史を、どんなに酷い疑惑の目を向けられようとも決して他言せず、何も明かさずとも真相を推し測って自分を信じてくれればそれでいい。そんなお話ですね。
…まぁぶっちゃけ信じて欲しい存在がいるなら、さっさとその人物にだけは真相話しちゃいなYo!と思わなくもないですが(笑)
キングがひとりの女優のために書き下ろしたという特別感に興味津々な方におすすめの作品です。
…ということで、キング原作映画の中からミステリー・サスペンス4作品をチョイスしてお届けしました。
S・キングのミステリーは、横溝正史や江戸川乱歩、アガサクリスティーやアーサー・コナン・ドイルほど作り込まれた謎解きではありません。
なんならジっちゃんの名にかけた金田一くんの漫画やコナン君のほうが、あっと驚くミステリーだったりします。
それでも映像演出や俳優陣の見事な演技が作品を盛り上げ、うすうす結末が読めてても最後まで楽しめるかと思います。
ありがちだけどありがちじゃない、キングらしい不思議ミステリーの世界を知るキッカケになれば、恐悦至極にございます。
その他、これぞS・キング!という作品をジャンルごとにお届けしております。
グロ系・キモ系・イカレぽんち系。お涙頂戴系など、作品チョイスにお役立てください。
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